料理における浸透圧
高校の化学の授業で習った「浸透圧」。実は、調理する過程で知らず知らずのうちに私たちは利用しています。緑茶やコーヒーを淹れる時、ご飯を炊く時、魚や肉の臭みを抜く時…。それはいったいどのような原理で起こるのか。また、もっとうまく利用する術はあるのか。基本を押さえつつ、料理に利用できる手法もお伝えします。
釜阪 寛(ひろし)さん:1964年生まれ。神戸大学農学部卒業後、1989年江崎グリコ株式会社入社。菓子開発研究室の焼き菓子チームに3年在籍した後、生物科学研究所で食品の新しい素材・技術開発を行う。健康科学研究所に名称変更した後、カルシウム、主に「お口の健康」の研究に携わる。2022年4月より甲子園大学 栄養学部 食創造学科教授に。同大学の学長である伏木 亨氏と共に食品の嗜好性の研究を行う。農学博士。
浸透圧の基本
調理の過程で、浸透圧の原理を利用することはよくあります。
生野菜をシャキッとさせるために水に浸けたり、魚や肉の臭みを取るために振り塩をしたり、前回お伝えした、野菜を乳酸発酵させて漬物を作る際にも用いられます。
高校の化学の授業のおさらいになりますが、この浸透圧とは、濃度の異なる溶液が半透膜(水=溶媒は通すが、水に溶けている物質=溶質は通さない膜)を隔てて接すると、濃度の低い方から高い方に水が移動し、同濃度に保とうとする水の圧力のことです。
生物の細胞は細胞膜という半透膜で覆われているため、水の移動が起こるんですね。私たちの身体の細胞内液は0.85%の食塩水と同じ浸透圧。他の生物も多少の値の違いはありますが、細胞内液より高い浸透圧の調味料を振りかけると、浸透圧の差によって細胞内の水が細胞膜を通って細胞外に引き出されて脱水しますし、低いと細胞内に取り込まれます。
また、水分が移動する際に細胞膜の構造が変わり(原形質分離)、調味料などが食物の中に染み込んでいったり、食物からあらゆる物質が流出したりするということも起こります。
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