産地ルポ これからの和食材

淀川産のハゼ

2021.11.25
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連載:産地ルポ これからの和食材

琵琶湖から流れ出る唯一の河川は、瀬田川、宇治川と名を変え、京都府大山崎町にて桂川、木津川と合流して淀川となり、大阪湾へと流れ込みます。近年では、この淀川で獲れる鰻が、その良質な味わいから関西だけでなく全国からも注目を集めるほどに。さらに、四季を通してさまざまな魚介が獲れ、その味を知った店主たちは「淀川産(もん)」の一品として提供しているといいます。今回は、口の肥えた通をして「鯛の造りよりも美味い」と言わしめる白身・ハゼについてご紹介します。

文:柴田くみ子 / 撮影:下村亮人

大阪産(もん)の魚や野菜の普及に取り組む「浪速魚菜の会」代表理事でもある笹井良隆さん。「若い世代の料理人さんには、淀川産のハゼを新しい素材として取り入れてもらえたら、料理のレパートリーも広がるのでは」と話す。
内田稲葉(1900~1983年)作の「浪華情趣十二ヶ月」の十月の一枚には、川に浮かべた船でハゼ釣りをする人や、釣ったハゼを天ぷらにして楽しむ人の様子が描かれている。江戸時代に始まったハゼ釣り船は、昭和初期頃まであったと言われている。

“淀川の彼岸ハゼ”を大阪の新名物に

大阪市内を流れる淀川流域で、さまざまな魚介が獲れるのをご存知だろうか。江戸時代まで遡(さかのぼ)れば、現在の西淀川区大和田辺りから大阪湾にかけての河口域は、淀川沿岸の中でも、漁業の中心地だったと言う。

淀川の水産資源を広く知ってもらおうと2017年6月に発足した「淀川ブランド推進協議会(通称:YRB)」の理事、笹井良隆さんによれば「海水と淡水が混ざる淀川河口域は、鰻をはじめ、ハゼ、コイ、フナ、ドジョウなど、さまざまな魚が産卵のために集まってくる場所。昔は漁獲量も豊かで大勢の漁師がいました。淀川産のシジミは、大粒で味が濃く、かつては『九條しじみ』と呼ばれるブランドだったんです」。

ところが、大正7(1918)年に始まった淀川改修工事などの影響で、漁獲量は年々減少。さらに1960年代、高度経済成長期の工場廃水などによって水質が悪化。汚れた川のイメージも影響し、淀川の魚介を食べる習慣はすっかり廃れてしまった。しかし、「大阪市漁業協同組合」が中心となって水質改善に取り組み、15年ほど前からはたくさんの魚が戻ってきた。

「淀川河口域で復活した魚介やその加工物を『淀川八珍』と称して、多くの人に知っていただこうとしています。天然鰻、ハゼ、九條しじみ、稚鮎、江鮒(エブナ)、カラスミ、うるか、きびれ鯛の8つ。江鮒はボラの稚魚で大阪名物の小鯛雀鮨に使われていたもの、カラスミは河口域のボラで作るものです」と笹井さん。

ハゼが揚がり始める秋口、秋分の日に獲れるハゼは“彼岸ハゼ”と呼ばれ、この日にハゼを食べると脳卒中にならないという言い伝えもあったという。かつては揚げたての天ぷらを食べながら船遊びを楽しむ「ハゼ釣り船」も風物詩の一つだったとか。

「昔はハゼといえば家庭で食べる庶民的な魚で、洗いや煮物、干したものはそうめんのだしなどに使われていたようです。せっかく地元に良い食材があるのだから、昆布とカツオだけでなく、ハゼを使ってだしをひき、大阪特有の料理を仕立てるのも良いのでは」と、笹井さんたちYRBでは、淀川産のハゼが大阪の新名物となることに期待を寄せている。



淀川河口で、いざハゼを釣らん

10月下旬、ハゼ釣りに挑戦しようとYRB監事で、「大阪市漁業協同組合」の畑中啓吾さんの操舵(そうだ)で淀川へと繰り出すことに。乗船したのは、飛騨高山生まれで「川釣りには自信あり」という北新地の『割烹 味菜(あじさい)』の店主・坂本 晋さん(と、そのお弟子さん)。そしてハゼ釣り経験者の笹井さん。阪神なんば線・福駅近くの大阪市漁協大和田支部の船着場から、いざ出航。

支流の西島川から淀川へ入ると一気に視界が開け、まるで外洋へ出たような開放感だ。頭上に走っているのは阪神なんば線や阪神高速。見慣れているはずの場所が全く別の景色にも見える。

走る船のエンジン音に驚いたのか、川面をピョンピョンと飛び跳ねる魚の姿があっちにもこっちも。もしやハゼ? と思えば、「あれはボラですね」と畑中さん。いずれは、淀川産のカラスミも作る計画なのだという。

釣れそうなスポットを選びアンカー(船を止めるための碇)を降ろし、思い思い竿(さお)に餌をつけ糸を垂らす。待つこと1時間。が、しかし。盛りの時期にはまだ早いことと、生憎、風が強い日だったこともあり、残念ながら釣り上げることはできなかった。そこへ、文字通り“助け舟”を出してくれたのが、淀川で魚介を獲って70年以上の名物漁師・松浦万治さん、86歳。松浦さんの船に乗り換え河岸へ。鰻漁のために仕掛けた筒(タンポ)を傾けてみると、中から数尾のハゼがピチピチと姿を現した(一同「ほっ」と胸をなでおろしたのは言うまでもない)。

もっと気温が下がり、本格的な旬を迎える頃には数もグンと増え、漁師たちは網でハゼ漁をするのだそうだ。

淡泊な白身は、天ぷらや焼き物にぴったり

早くから天然鰻やシジミなど、淀川産を品書きに載せている『割烹 味菜』の坂本さんにハゼの料理を作っていただき、試食させてもらった。

活けハゼは、中骨を抜いて綿実油100%の揚げ油でカラリと天ぷらに。揚げたてに歯を立てると、サクッと小気味よい歯ごたえ。ふっくらとしてキスに似た上品な白身の旨みがジュワッと口に広がる。片側に巻いた大葉の風味も清々しい。

もう一品は、ハゼの焼き干しとシジミで取っただしで仕立てたにゅうめん。魚介のだし特有の臭みが全くなく、これもまた上品な味わいだ。

坂本さんによれば「淀川産の天然鰻はかなり知名度が上がっていて、福岡など遠方からわざわざ来られるお客さんもいる」という。そんな時には、他の淀川産も知ってもらおうと、鰻を蒲焼きで、シジミは吸い物で、ハゼは天ぷらやにゅうめんで提供。名付けて「淀川コース」の完成だ。

笹井さんによれば「ハゼの造りは鯛より旨い」という。なかなか食べる機会がないのは、小ぶりな魚体ゆえに結構な手間がかかるからのようだ。 

近年、急速に浄化が進み、かつての清い河川に甦りつつある淀川。豊かな淀川水系の水産資源をブランド化して、その価値を知ってもらおうと立ち上げられたYRBが中心となり、販路開拓や淀川産の商品開発など、さまざまな試みが進められている。

淀川で獲れた活けのハゼや焼き干しが、さらに飲食店などで広く使われるようになれば、鰻やシジミに続く大阪の“新名物”として定着する日も遠くなさそうだ。

『割烹 味菜』
【住所】大阪市北区曽根崎新地1-5-4 岩伸スプレットビル 1F
【電話番号】06-6346-1818
【営業時間】11:30~13:30入店・LO、17:00~22:30LO
【定休日】日曜、祝日
【お料理】昼/会席3500円〜、夜/会席7000円〜。

『割烹 味菜』の坂本さん、お弟子さん、笹井さんの3名でハゼ釣りに挑戦。遠くに高層ビルが見える淀川は、普段見る景色とは違い、別世界のよう。
阪神なんば線と阪神高速3号線の間辺りでハゼを狙う。
釣り糸を垂らす坂本さんと笹井さん。大阪湾に近い淀川河口域は砂地で、水深2〜3m。ハゼも水深2mほどの砂泥底に多く生息する。冬になれば、河岸から釣り糸を投げても釣れるほど増えるそうだ。
この日、船を出してくれたのは「大阪市漁業協同組合」の総務次長で、販売事業を統括する畑中さん。YRBの監事も務めている。
漁師歴約70年の松浦さん。淀川に伝わる伝統漁法、タンポと呼ばれる筒を沈める方法で鰻漁を続けている。この日は鰻は入っておらず、ハゼが獲れた!
松浦さんの仕掛けの中に入っていたハゼ。体長は10〜20㎝ほど。秋口から年明け1月頃までが旬。販売価格は10尾800円。「大阪市漁協株式会社」で購入可。
北新地本通りで創業40年。『割烹 味菜』の店主・坂本さん。「大阪料理会」(WA・TO・BIにて連載中)では運営委員の一人として割烹の妙技を後進に伝えている。
「大阪市漁業協同組合」の六次産業化による開発商品の一つ、ハゼの焼き干し。新鮮なうちに内臓を取り除き、一旦冷凍してから解凍し、燻製にしたものを真空パックにして販売。1パック10尾入り1000円。こちらも「大阪市漁協株式会社」で購入可。
『味菜』の「大阪産のにゅうめん」1430円。だしは、ハゼの焼き干しと淀川産シジミで濃い目に取り、カツオ、昆布のだしで割っている。桂剝きにした大根で包まれているのは、難波ネギと刻み揚げ、そしてそうめん。坂本さんのアイデアと技が光る一品だ。上には半身の焼きハゼをのせて。ハゼの天ぷら1100円もにゅうめんも、入荷する日にはアラカルトの一品として登場。
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