和食を科学する料・理・理・科

ハマグリの火入れvol.3マリネの利点

67~70℃でハマグリのむき身を10分煮て、内臓に火を通し、全体を柔らかく歯切れよく下加熱しているという京都『衹園きだ』の木田康夫さん。ところが、お椀にする場合は熱々の吸い地を注ぎ入れるため、ハマグリが一気に硬くなってしまうのが課題です。そこで農学博士・川崎寛也先生は「ハマグリを硬くなりにくい状態にしておいたらどうか?」と提案。vol.3では、4種の食材を使ったマリネに挑戦します。

文:中本由美子 / 撮影:香西ジュン

目次

木田康夫さん(京都・衹園『衹園きだ』店主)

1971年、滋賀県生まれ。京都『先斗町ふじ田』での修業時代に師匠の佐々木 浩氏と出会い、長年、右腕として活躍。六本木『八坂通りAn京割烹』、富山の料理旅館『リバーリトリート雅樂倶(がらく)』内の『和 彩膳所 樂味(らくみ)』、『衹園 樂味』など、『衹園さゝ木』プロデュース店の料理長を務め、2016年に独立を果たす。好奇心旺盛で、調理科学にも興味津々。面白味と説得力のある日本料理を供す。カウンターを盛り上げるトーク力にも定評がある。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)。

プロテアーゼ(たんぱく質分解酵素)とは?

川崎寛也(以下:川崎)
vol.1vol.2を通して、木田さんのいつものハマグリの火入れは理に適っていることが分かりました。けれど、熱々の吸い地をかけるとハマグリが硬くなってしまうという課題が残っていますね。今回は、そこをクリアするための実験です。
木田康夫(以下:木田)
マリネと昆布〆ですね。興味津々です!
川崎:
まずはマリネで、二つの可能性を検証してみようと思います。
一つは、プロテアーゼを豊富に含む食材でマリネすると、どうなるか? 二つめは、柑橘の果汁の保水性を利用するやり方です。
木田:
プロテアーゼを含む食材の一覧をいただいていたので、その中から今の時季にあるパイナップルとキウイ、新玉ネギを用意しました。フルーツでハマグリをマリネしてお椀に…というのは想像がつきませんけど(笑)。
川崎:
プロテアーゼが働くと、ハマグリの筋線維がプツプツと切れるんですね。すると、弾力がなくなり、加熱しても柔らかい状態をキープできると思います。
木田:
一番興味があるのは新玉ネギです。もし上手くいったら、マリネするのに使った新玉ネギをすり流しにしてお椀を仕立てたいなと思っています。
川崎:
いいですね! ぜひ、食べてみたいです。
柑橘の方の効果は、ハマグリを柑橘果汁でマリネすると、筋線維が酸性になり、保水力が上がること。「魚をしっとり焼き上げるには?」の回で、鯛を柑橘果汁でマリネしてから焼き上げる実験をしましたが、効果を感じました。加熱しても、しっとり柔らかい食感になると思います。
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