上野修三の古典

【レシピ付き】造り醤油にも鱠(なます)のタレにも淡口醤油が上野流

「20年以上前から、お造りを淡口醤油でお勧めしてましたな」。伝説の割烹『天神坂 上野』では、白身はもちろんのこと、赤身や青背の魚、イカやエビなど、旬の魚介に合わせた様々な淡口仕立ての造り醤油を工夫していたと、上野修三さんは言います。今回はその中から、ヒガシマル醤油を使った3種のレシピをご開陳いただきます。応用編として、ハマグリと鯛を主役にした春の鱠もご紹介。「魚介の色を損なわず、持ち味を深める。淡口醤油は鱠には欠かせまへん」という上野流の仕事をご覧あれ!

上野修三(うえのしゅうぞう):昭和10年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、1965年、『㐂川(きがわ)』を創業。なにわ伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。現在は、なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍。近著に「浪速割烹㐂川のおいしい野菜図鑑」春夏編・秋冬編(共に西日本出版社)がある。

聞き書き:中本由美子 / 撮影:宮本 進

お造りに淡口醤油が向く理由

あれは平成の初期、法善寺の『浪速割烹 㐂川(きがわ)』を長男に託し、四天王寺で『天神坂 上野』を始めてしばらく経った頃だした。ふと、白身の造りを濃口醤油でお勧めすることに、疑問を感じましてネ。淡口醤油を使うたらどやろ?と工夫してみましたんや。

法善寺の頃に、和風カルパッチョを「紗羅陀(サラダ)造り」と謳ってお出しして、えらい喜ばれましてネ。タレは、淡口醤油にスダチ果汁とオリーブ油を合わせた柑酢(かんず)ドレッシング。よぉ考えたら、お造りと淡口醤油の相性のよさは実証済みやったんだす。

柑橘に梅干し、大葉、木の芽や蓼(タデ)、昆布…と、淡口醤油と相性のええ食材はいくらでもおますやろ。いろんなタレを考えるのが面白くてネ。

と、思ってたら、ヒガシマルさんがええ醤油を作ってくれました。2013年に誕生した「超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇」。旨みはまろやかで、奥深さとコクがある。香りは上品で、まさに芳醇。造り醤油としては、申し分おまへんでぇ。

エビやイカ、白身全般と合う定番の造り醤油

車エビとイカの造り 「超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇」のタレ

淡口醤油そのままでは少し塩気が強いので、造り醤油にする場合は煮切り酒でバランスを取るのが私流。酒のアルコール分は醤油の風味を邪魔するから、しっかり煮切っておくれやす。
造り身をちょんと浸けるのに、淡い色のタレのほうが見た目もよろし。魚介の持ち味も生きると、私ゃ思いますな。

定番の造り醤油は、「超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇」3に対して、煮切り酒1。白身全般合うけれど、とりわけ身に甘みのあるエビなどの甲殻類やイカと相性がよろしいな。帆立貝やウニなんかもええやろねぇ。

赤身や青背の魚に淡口土佐醤油

トロと赤身の造り 「超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇」の土佐醤油

マグロのお造りに淡口醤油は…と思いなさる? いやいや、よぉ考えておくれやす。マグロは赤身、カツオも赤身でっしゃろ。カツオ節を造り醤油に加えたら、ぐっと相性がよくなるんでっせ。

「超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇」と煮切り酒、煮切りみりんを3:1:0.5で合わせたところに、花ガツオを一晩漬けた淡口土佐醤油は、鯖やイワシ、アジなどの青背の魚にも向きますな。

今回は、トロと赤身を盛り合わせたお造りで。脂の濃厚な旨みにも、赤身の鉄分や酸味にも、すっと寄り添ってくれまっせ。花ガツオをマグロ節に変えると、より品のいい味わいになりますな。

鯛の深みのある旨みには松前醤油を

鯛の造り 「超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇」の松前醤油

鯛は昆布のように奥ゆかしい旨みがありまっしゃろ。せやけど、獲れたてのゴリゴリした鯛には感じられまへん。活け締めした鯛を三枚におろして、少し置いておくと死後硬直が起こる。その後、身がはんなりと柔らかくなるんだす。そのタイミングこそ、食べ頃。さばいて、ちょうど8時間くらいが目安だすな。

紙塩と言うて、奉書紙をちょっと湿らせてから上身に被せ、間接的に塩を当てる古い仕事がおますけど、コレを現代的にしたんが、脱水シートを使うやり方。上身に薄塩をして、脱水シートに挟んで2時間。余分な水分が抜けて、塩味もほどよく回る。旨みがぐっと強く感じられまっせ。
そのままでも充分旨いけど、さらに昆布〆にしてもよろしいな。

「超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇」と煮切り酒、煮切りみりんを3:1:0.5で合わせ、昆布を一晩漬けた松前醤油は、上等な白身専用。鱠のタレにも向きまっせ。

実はここ数年、鯛の身質が変わってきたように思うんだす。ちょっと味わいが優しくなったと言うんかな。そんな今どきの鯛をいただくのに、濃口醤油ではちょっとしんどい。これからは、淡口醤油でっせ!


蛤の酒引き鱠

蛤の酒引き鱠——淡口仕立ての松前醤油にハマグリの煮汁を合わせて

日本では、ハマグリを古代から食していたようだす。その貝殻が、縄文時代の貝塚から仰山(ぎょうさん)見つかってますねんで。

その剥き身の食べ方は?というと、どうやら鱠だったようですな。「日本書紀」には、景行(けいこう)天皇の巡幸の際、後の料理番となった磐鹿六雁命(いわかむつかりのみこと)が「白蛤の鱠」を献上し、大変喜ばれたとある。白蛤はウムギと読ませるようやけど、どんな鱠だったかは、なんぼ調べても分かりまへん。

そこで、私流。ハマグリの剥き身を酒煎りして、その煮汁を先の松前醤油に合わせるって寸法だす。ハマグリの磯の香りや濃厚な旨みがぐっと際立つのは、淡口醤油の成せる技でっせ。

酒煎りは、酒引き、酒煮とも言いますな。今回は煮切り酒を使ったけど、昆布だしと酒を合わせるのも手だす。ハマグリは火を通し過ぎたら値打ちなし! 透明感がなくなったらすぐ引き上げ、団扇で扇いで急冷しておくれやす。

【作り方】
<ハマグリを酒煎りする>
①    ハマグリの身を殻から出し、腸(ワタ)の部分に横から庖丁を入れて、2枚に開く。
ハマグリをさばく
②    煮切り酒を熱し、①を酒煎りする。腸にはしっかり火を通すこと。
ハマグリの酒煎り
③    陸上げし、団扇などで扇いで粗熱を取る。
<仕上げる>
④    塩蔵のワカメを塩抜きし、昆布入りのたて塩に3時間浸しておく。
⑤    ②の煮汁を濾し、同量の「松前醤油」と合わせる。米酢で味を調える。
ハマグリの煮汁と松前醤油、米酢を合わせる
⑥    ③と④を適宜切って器に盛り合わせ、よりウドをあしらい、ワサビを添える。⑤をつけていただく。


鯛と高山真菜の鱠

鯛と高山真菜の鱠——淡口醤油で味を深めた煎り酒のアレンジ版で

春の鯛は産卵前で、婚姻色といってほんのりピンク色を帯びてくる。この美しい鯛を“桜鯛”と称して、大阪では昔から珍重してきたんやけどネ。お腹に子を抱いてまっさかい、身はちょっとお疲れ気味だす。

この時季は、お造りで食べるにしても、塩や昆布で旨みを補ってやるとよろしいな。今回は、軽く塩で〆た後、2~3時間昆布〆。あんまり長く〆たらあきまへん。昆布の旨みに鯛の繊細な味わいが負けてしまいまっせ。

お相手は、大阪の北端部・豊能(とよの)郡の高山地区で育つ高山真菜。アブラナ科の野菜で、厳寒の山育ちやから交雑することなく、真の菜にふさわしい深い味わいがおます。私ゃ、この青菜が大好物でしてネ。生食が一番ええけど、鯛との相性を考えて、さっと湯に潜らせて、昆布入りたて塩に浸しましてん。

春の鯛と、名残りの真菜。この名コンビには梅の風味がよく合いますな。煎り酒よりも、さらに旨みを深めた淡口梅醤油でいきまひょ! 昔から醤油を“影”と言いますが、「超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇」の芳しさは、まさに影の主役でっせ!

【作り方】
<鯛を昆布〆にする>
①    鯛を造り身にし、薄塩を当てて1時間ほどおく。
②    昆布で①を挟み、2~3時間おく。
<高山真菜を昆布〆にする>
③    高山真菜をさっと湯に潜らせる。すぐさま冷水に取り、色止めをし、軽く絞って水気を切る。
④    昆布入りのたて塩に③を3時間ほど浸しておく。
鯛の昆布〆と、高山真菜の昆布たて塩漬け
<淡口梅醤油を作る>
⑤    酒2合に梅干し7個を入れ、半量になるまで煮詰める。
⑥    粗熱が取れたら昆布を加え、そのまま一晩置いておく。
⑦    「松前醤油」を⑥の1/3量を目安に合わせる。
煎り酒を作り、松前醤油と合わせる
<仕上げる>
⑧    器に②、適宜切った④を盛り合わせ、ワサビを添える。⑦をつけていただく。

shu0023k超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇(左)
国産原料を100%使用。丸大豆熟成しょうゆもろみと、米糀の二段熟成甘酒がひとつになり、まろやかな味わいに。400㎖。
特選丸大豆うすくちしょうゆ(右)
国産原料を100%使用。淡く上品な色合いと、おだやかな香りで素材を生かします。500㎖。

■問合せ:ヒガシマル醤油㈱ お客様相談室 ☏0791-63-4635(受付時間9:00~17:00、土・日曜・祝日・年末年始・夏期休暇除く) https://www.higashimaru.co.jp

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