【レシピ付き】淡口八方に魚介だしを利かせた、夏野菜の煮物
大阪は8月にお盆月を迎えます。昔からお盆には、肉や魚を禁忌とし、精進料理をいただく習わしがありました。「廃れつつあるこの風習を、料理屋だけでも守っていくべき」と、上野修三さんは言います。せめて、この月ばかりは野菜を主役にした一品を充実させてほしい。そこで今月提案するのは、ヒガシマル醤油の淡口醤油を使った夏野菜の煮物。この時季、大阪湾で揚がるトビアラと、干し帆立で濃厚なだしを取り、淡口八方に。冬瓜や芋茎(ズイキ)、子芋の持ち味と繊細な色を生かして煮上げます。
上野修三(うえのしゅうぞう):昭和10年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、1965年、『㐂川(きがわ)』を創業。なにわ伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。現在は、なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍。近著に「浪速割烹㐂川のおいしい野菜図鑑」春夏編・秋冬編(共に西日本出版社)がある。
魚介だし×淡口醤油で持ち色を生かし、味に深みを
大阪のお盆はひと月遅れでっさかい、8月がお盆月になりますな。この月くらいは、日ごろの贅沢を省(かえり)みて、料理屋でも精進料理を主体にしたらどうやろ?と、随分前から提言してきたんやけどネ。現代の和食には豪華な魚介や肉類が欠かせないようで…。野菜の料理はすっかり脇役や。
でもネ、8月のコースは野菜料理を少し多めに…というくらいは、料理屋でもできまっしゃろ。そこで、夏らしい野菜の煮物を提案させてもろた次第だす。
冬瓜やナス、カボチャ、芋茎に子芋。夏野菜は意外と煮物に向いてますねん。けれど、濃い味で茶色く煮たら、ちょっと暑苦しい。淡い味でさっと煮るか、茹でて淡口八方に浸し、味を含ませる。その方が、素材の色を損なわず、目にも涼しげでっしゃろ。
となると、味の要は淡口醤油にお任せするほかおまへん。その上で、底味となるだしを工夫するとよろしいな。
そこで今回は、大阪の夏のエビ・トビアラと干し貝柱、2種の魚介だしを使いましてん。どちらもしっかりと深いだしを取って、淡口醤油・塩・酒・みりんで味を付ける。この淡口八方の塩梅を少しずつ変え、味付けの四方八方に使うって寸法だす。
冬瓜の淡口霙(みぞれ)あん——トビアラだしの淡口八方で冬瓜を丸ごと味わう
冬瓜は優しい持ち味を生かして、淡味に煮上げたいところやけど、それだけでは味が物足りまへんわなぁ。鶏だしを利かせたり、肉味噌で田楽風にしたりと、食べ応えを出す工夫が必要でっしゃろ。
大阪湾ではこの時季、トビアラが揚がりますな。クルマエビ科のサルエビで、体長は10㎝前後と小さいけど、なかなかええだしがとれるんだす。淡口醤油とは相性抜群やから、塩と酒・みりんを合わせて淡口八方にしましてん。
私ゃ、野菜を煮る時は特に余さず使い切りたい。冬瓜やったら、切れ端も種の周りのワタも使って、捨てるのは硬い表皮だけ。この切れ端とワタは裏漉しして、霙あんにしたら旨いんでっせ。
冬瓜は皮目の淡い緑を生かすことが大事ですな。私ゃ、細工仕事が得意やったから、よぉ木の葉に見立てたもんだす。角ノミを使って葉脈も描いてネ。
白い部分はトビアラだしの淡口八方で20~30分煮て、味をしっかり含ませる。緑の皮目はこれをやると、色が飛んでしまうので、さっと茹でて冷水で色止めし、この煮汁に淡口醤油を少し加えて2時間以上浸しておくれやす。
冬瓜は下茹でしてから炊くんだすが、旨みの染み出た茹で汁も捨てずに使うのが私流。昆布だしで下茹でして、その茹で汁で焼いたトビアラの頭や殻を煮出し、カツオ節の旨みも合わせて、トビアラだしを取るんだす。
そんな面倒な、と思わはる? いっぺん騙されたと思って、冬瓜の茹で汁を使ってみなはれ。冬瓜の持ち味がぐっと深まって、なるほど!と膝を打つはずだっせ。
冬瓜の淡口霙あんの作り方
<トビアラの下準備をする>
- ①
- トビアラの殻を剥き、頭と殻を軽く焦げ目が付くまでサラマンダーで焼く。
- ②
- ①の身を粒切りにし、少し塩を振る。酒煎りにし、6割程度火を通す。
<木の葉冬瓜を作る>
- ③
- 冬瓜を縦6㎝幅に切って皮を薄くむき、皮目から1.5㎝厚さに切る。ひし形になるよう、6㎝幅の斜め切りにする。
- ④
- 先端を丸く切り、1㎝間隔に切り込みを入れて木の葉型にする。皮目に角ノミで筋を入れ、葉脈を描く。皮目に塩をすり込んで5分ほど置き、洗い流す。
<冬瓜の下茹でをする>
- ➄
- ③で残った冬瓜の白い部分を大きめの乱切りにする。切れ端や種とワタの部分は残しておく。
- ⑥
- ④・⑤を昆布だしで茹でる。⑤が先に火が通るので、陸上げする。
- ➆
- ④の木の葉冬瓜は皮目に竹串が通るまで茹で、すぐに冷水に取って色止めする。茹で汁は取っておく。
<冬瓜を煮る>
- ⑧
- ⑦の茹で汁に①のトビアラの頭と殻を加えて約10分煮出し、カツオ節を加えてひと煮立ちさせる。濾した後、淡口醤油・塩・酒・みりん少々を加え、淡口八方とする。
- ➈
- ⑥を⑧の淡口八方で20~30分煮る。そのまま冷ましておく。
- ⑩
- ⑨の煮汁を半量ほど取って淡口醤油を少し足し、⑦の木の葉冬瓜を2時間以上浸しておく。
<霙あんを作る>
- ⑪
- ⑨の切れ端、ワタの部分を引き上げる。ワタの種を取り、裏漉しする。
- ⑫
- ⑨の煮汁・⑩の浸し地を合わせて温め、⑪を加える。
- ⑬
- ②のトビアラの身を加えてひと煮立ちさせ、水溶き吉野葛でとろみをつける。
<仕上げる>
- ⑭
- ⑨・⑩を温めて器に盛り、霙あんをかけ、おろしショウガを添える。
子芋と芋茎の炊合せ——干し帆立の淡口八方で、子芋は八方煮、芋茎は蓮芋と鳴門巻に
石川子芋は今や全国で栽培されてるけど、実は大阪生まれやってお話は以前しましたな。
里芋を親芋として、その周りにできるのが子芋。芋茎は、里芋の茎でおます。白芋茎は、ゴザなどを巻いて日光を遮り、白く栽培したもの。青芋茎と呼ばれるのは蓮芋の茎で、これもサトイモ科だす。
どれも里芋の仲間でっしゃろ。炊合せにしたら面白いと思って、よぉお出しさせてもらいましたな。
白芋茎と蓮芋を重ねて巻いて渦巻き状にする仕事は夏向きですな。二切れ並べて盛ると、渦を巻いた水の模様「観世水(かんぜみず)」にも見立てられまっしゃろ。
煮汁のベースは、干し貝柱のだしでおます。昆布と共に一晩水に浸け、カツオ節と共に煮出して、淡口八方に。
まずは白芋茎を炊いて、その煮汁を冷まして蓮芋を浸しておくと、緑の色が飛びまへん。浸し地には、ちょっと淡口醤油を足しておくとよろしいな。
子芋を淡口八方煮にする時は、淡口醤油とみりんを少し加えて甘八方に。奈良漬けでお馴染みの越瓜(しろうり)は、なにわの伝統野菜にも「服部越瓜」「玉造黒門越瓜」がおましてネ。種の部分を打ち抜き、さっと茹でて淡口八方に2時間以上浸しておくれやす。
夏らしく冷製でお出しするなら、もう一つ、味のアクセントが必要ですわな。漬け梅(梅干し)を添えるのはどうだす? さらに露生姜(ショウガ汁)をぽとっと垂らすと、涼感がぐっと増しまっせ。
子芋と芋茎の炊合せの作り方
<干し貝柱だしの淡口八方を作る>
- ①
- 干し貝柱と昆布を、同割の酒と水に一晩漬けておく。
- ②
- ①の干し貝柱をほぐし、15分ほど煮出す。カツオ節を加え、4~5分煮出して濾す。
- ③
- 淡口醤油・塩・酒・みりんで味を付け、淡口八方とする。
<白芋茎・蓮芋の鳴門巻を作る>
- ④
- 白芋茎の皮を剥き、15㎝長さに切る。酢を数滴落とした湯で、落とし蓋をして茹でる。
- ➄
- ④の粗熱が取れたら、2~3㎜厚さの帯状になるよう、薄くそぐように切る。
- ⑥
- ③の淡口八方で⑤をさっと炊き、そのまま煮汁に浸して粗熱を取る。
- ➆
- 蓮芋の皮を剥き、15㎝長さに切る。塩茹でし、冷水に取って色止めする。2~3㎜厚さの帯状になるよう、薄くそぐように切る。
- ⑧
- ⑥の煮汁を取り、淡口醤油を少し加え、⑦の蓮芋を2時間以上浸しておく。
- ➈
- ⑥の白芋茎と⑧の蓮芋を重ねて巻き、3カ所ほど竹紐で縛る。
- ⑩
- ⑥・⑧の淡口八方を合わせ、⑨を浸けて冷蔵庫で冷やす。
<子芋を八方煮にする>
- ⑪
- 子芋は八方に皮を剥き、米の研ぎ汁で下茹でする。
- ⑫
- ③の淡口八方に淡口醤油とみりんを少し足し、⑪を煮て粗熱を取る。冷蔵庫で冷やす。
<蛇ノ目越瓜を作る>
- ⑬
- 越瓜を10㎝長さに切り、種の部分を打ち抜いて5㎜幅に切る。
- ⑭
- ③の淡口八方に浸け、冷蔵庫で2時間以上冷やす。
<仕上げる>
- ⑮
- ⑩の白芋茎・蓮芋の鳴門巻を3㎝厚に切る。小芋八方煮、蛇ノ目越瓜と共に盛り、⑩の浸け地をかける。適宜切った梅干しを添え、ショウガ汁を垂らす。
超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇(左)
国産原料を100%使用。丸大豆熟成しょうゆもろみと、米糀の二段熟成甘酒がひとつになり、まろやかな味わいに。400㎖。
特選丸大豆うすくちしょうゆ(右)
国産原料を100%使用。淡く上品な色合いと、おだやかな香りで素材を生かします。500㎖。
■問合せ:ヒガシマル醤油㈱ お客様相談室 ☏0791-63-4635(受付時間9:00~17:00、土・日曜・祝日・年末年始・夏期休暇除く)
https://www.higashimaru.co.jp
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