今月の和菓子

6月の和菓子——貴船の蛍

京の奥座敷・貴船の静かな川辺。1年のうち、ほんの数週間しか出合うことができない蛍の光は、見る者の心も暖かく灯します。その情景を艶やかな一菓に仕立てていただいたのは、西陣の菓子司『千本玉壽軒(せんぼんたまじゅけん)』三代目・元島真弥さん。季節ならではの寒暖の差により微調整する表現についてもお教えいただきました。

文:小林明子 / 撮影:岡森大輔

「佇まいは涼しげですが、実は温もりも表現しています」。

山間部に自生する葛の根を砕いて抽出するでんぷん質を水に晒し、不純物などを丹念に取り除いて自然乾燥。その後、粘り気や食味向上のために1年熟成させる国産本葛粉は、手間がかかることや歩留まりの悪さから“白い金”とも称される。

滋養強壮効果のある食材としても知られる本葛粉をほんのり赤味がからせた緑に色付けし、透明感のある生地に練り上げる。水に落として素早く形を整え、黒こしあん、蛍とその光に見立てた小豆の密煮と黄色のあんをのせて貝包みするのが「貴船の蛍」。市中より約5℃も気温が低い京の奥座敷・貴船を流れる清流に若葉が映る夜をイメージした、涼を呼ぶ葛菓子だ。

気泡の入った葛生地が物語るのは清らかな川面。だが、下方をよく見ると、うっすら粉がはたかれている。“粉の羽織”とでも呼びたいこの手法は、肌寒い日も時にある梅雨明け前後に用いる温かさを演出する意匠。衣の袖の長短を変えるが如く、粉を打つ面積を気温に合わせて微調整している。

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