今月の和菓子

1月の和菓子——虹の窓

「1月は、その1年を意識したお菓子を作ります」と『千本玉壽軒』三代目・元島真弥さんは言います。春、夏、秋、冬の景色を優しい色合いに映し、さらに、京都に根付いた文化も取り入れ、1年をかけて考え抜いた今月の一菓。見る者の心を穏やかに、また、少しの緊張を感じさせる、一年の始まりに相応しい佇まいです。

文:小林明子 / 撮影:岡森大輔

「1月の和菓子作りは、その前年に“お題”が発表された瞬間から始まります」。

ものづくりに携わる人たちが、新年に向けての構想を練り始めるタイミングで口にするセリフがある。「来年のお題は…」だ。戦前は「勅題(ちょくだい)」または「御題(ぎょだい)」と呼ばれていた、毎年1月半ばに宮中で催される「歌会始(うたかいはじめ)」で詠まれる和歌のテーマ。元々は皇族や貴族の習慣として開かれていたため京都では馴染みが深く、日々の暮らしの中でもそのお題をモチーフにすることは珍しくない。一種の制約に基づいて八寸や菓子、器の意匠を考えることは、創造力を鍛える絶好の機会にもなっている。

その年の歌会始の後に、翌年のお題が発表される。それをどう反映させるか、各界の作り手たちは1年近くかけて思案する。令和4年のお題である“窓”を受けて、元島さんが選んだのは「平家物語」にも登場する嵯峨鳥居本(さがとりいもと)の祇王寺(ぎおうじ)の大きな円形の窓(吉野窓)。草庵の控えの間にあるその窓の障子には、庭に植わる樹々を通して光が差し込むため、季節によって様々な色彩が映し出される。ゆえに「虹の窓」とも呼ばれている。

白あんを包むういろう生地は4つに区分け。冬の雪色は生地の色をそのまま生かす一方、春の桜色(紅色)、夏の新緑色(くすみのない緑)、秋の紅葉色(オレンジ)はニュアンスが出せる内ぼかし式でそれぞれ色付け。赤を右に置かねばならない茶菓子界の決まりと、目につきやすい手前にリアルの季節である冬の色を置くため、左回りで4色をレイアウト。祇王寺の窓に嵌(は)められた障子と竹格子をデフォルメした金型にニッキ粉をつけて押し当てている。

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