今月の和菓子

10月の和菓子——小芋

平安時代に中国から伝わった、旧暦の8月15日ごろ(新暦では9月末から10月上旬にかけて)の美しい月「中秋の名月」を愛でる風習は「十五夜」と呼ばれ、里芋の収穫期とも重なることから月の別名は「芋名月」ともいいます。「今年の『十五夜』は9月21日。ですが、10月も『十三夜』があるように、空気は澄んでいて月は引き続き美しい。月を愛でる心を持ちつつ、食べていただきたいお菓子です。里芋の収穫も真っ盛りですしね」とは、『千本玉壽軒(せんぼんたまじゅけん)』三代目・元島真弥さん。リアルな佇まいながら愛らしさも感じさせる、その手法は必見です。

文:小林明子 / 撮影:岡森大輔

「ユーモラスな佇まい。京都人の里芋愛も伝わるお菓子です」。

月見の和菓子と言えば、関東では主に三宝に積み重ねる白い丸団子を指す。関西では、米粉などで作る団子にこしあんを巻いたものを主に月見団子と呼ぶが、これは月が雲間から顔を出す様子を表しているとする説と、あんを表皮に見立てて里芋を表現しているという説がある。そして、晩秋の茶事などに誂えられてきたのが、京の食卓に欠かせない里芋を皮ごと蒸した“衣被(きぬかつぎ)”を模(かたど)った「小芋」だ。

里芋は、種芋から一番初めに出るものを親芋、その周りに出てくる部分を小芋、その後に生えてくる芋を孫芋と呼ぶことから、子孫繁栄を象徴する縁起の良い食べ物とされてきた。汁物に煮物に、京都人がハレの日にもケの日にも重宝する存在でもある。

白こしあんを包むこなし生地のもっちり食感も里芋を連想させる。コロンとしたフォルムだが、芽の方はほんの少し細く、根の方は平たく成形。根元寄り、縦の中心線の右側に付ける孫芋は、右に行き過ぎると間が抜けるし、中心に近づき過ぎても可愛さが感じられなくなる。座りの良い位置を見定めることが「小芋」の完成度を左右する。

皮の跡は、ニッキ粉末の水溶きを先の細い絵筆に含ませて一線ずつ丁寧に描く。通常、色柄を添える目的で使う場合のニッキは少量だが、この菓子ではたっぷり使われているため、特有のエキゾチックな甘い香りも楽しめる。

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