今月の和菓子

7月の和菓子——鉾巡り

1日の切符入に始まり、31日の疫神社夏越祭(えきじんじゃなごしさい)まで。7月の京都は、祇園祭一色となります。今年は、一部の山鉾(やまほこ)建ては行われるものの、見どころである山鉾巡行は、昨年に引き続いて中止。観覧は自粛という静かな祭となりますが、西陣の菓子司『千本玉壽軒(せんぼんたまじゅけん)』三代目・元島真弥さんは、「せめてお菓子で楽しんでいただけたら」と話します。今月の一菓には、その表現方法や工夫が詰まっていました。

文:小林明子 / 撮影:岡森大輔

「図柄の右側に空間を作ると“すわり”が良くなります」。

菓銘からも明白なように、モチーフは祇園祭の山鉾。宵山などで鉾を眺めながら歩く様子をイメージしている。祭礼が執り行われる八坂神社社殿を連想させる朱色、散らした金・銀粉で華やかさを演出。神聖な存在でもある鉾は、焼き印ではなくニッキ粉をつけた金型を押しつけて描き出している。図柄はやや左上に配置。右側にあえて空間を設けることで、洗練された雰囲気を醸成している。

白あんを包むのは、餅米粉に米粉と水分などを加えて蒸し、なめらかな食感になるまで捏ねた“ういろう生地”。ぷるんとハリのある質感、そこはかとない透明感が出せることから、夏感や果物をテーマに据える際によく使われる。部分的な色付けには着色した生地を重ねるのだが、その技法は2通り。くっきり際立たせたい時は、表側から色生地をのせる。これは“外ぼかし”と呼び、主に“こなし”生地で用いられる。「鉾巡り」のようにニュアンスを出したい時は“内ぼかし”。裏側から色付けした生地をなじませている。

“ういろう”と聞くと、水無月や名古屋名物の光沢感を思い浮かべるかもしれない。「鉾巡り」とは質感が違って見えるが、実は同じ材料で作られている。餅米と米粉の配合、加える水分の量を変えるなどで、今回のようなマットな質感から光沢ありまで、自在に変化させられる。『千本玉壽軒』では10種以上のういろう生地を使い分けている。

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