日本料理のことば

真薯【しんじょ】─レシピ付き

魚・鳥・エビなどのすり身に、すりおろした山の芋や卵白などを加えて成形し、蒸したり茹でたり揚げたりしたもの。これを日本料理では「しんじょ」といいます。蒸し物や椀だねとしてお馴染みのこの料理名、「真薯」「真丈」「糝薯」など様々な漢字があるのをご存知ですか? さて、それはどうしてなのでしょう? そして、その意味とは? 今回は、いつ誰が生み出したか定かではないというこの不思議な料理のことばに迫ります。辻調理師専門学校の濱本良司先生による「蛤しんじょ椀」のレシピにもご注目を!

文:「辻󠄀静雄料理教育研究所」今村友美 / 料理制作:「辻調理師専門学校」濱本良司
撮影:東谷幸一 / 協力:辻󠄀調理師専門学校
※更新日:2022年4月26日

真薯、糝薯、真蒸、真丈、真上、新薯…。風変わりな例だと真如、新千代など。「しんじょ」を表す漢字はいろいろあります。

この不思議な言葉、いつ誰が生み出したか定かではありませんが、江戸時代中期には存在が確認できます。茶人・遠藤元閑(げんかん)が記した『茶湯献立指南(ちゃのゆこんだてしなん)』(1696年)には、魚と山の芋をすりおろして混ぜたものとして「しんぜう(=しんじょ)くづし」が登場し、一説ではこれが文献上の元祖とか。

また、加賀藩御料理人・舟木伝内(でんない)の『ちから草』(1725年頃)には「蒸しんしょ」が登場し、この頃から「しんじょ」「しんちょ」「しんしやう」「しんじょう」などが文献の中に見られるようになります。大体が仮名書きで、漢字を当てたとしても定着しない状態が長く続きました。

一般的に古い例として知られる表記「糝薯」が現れたのは、明治時代後期。糝は粘る、薯は山の芋を意味し、生地の状態を表すというのがよくある解説です。しかし、糝をシンと読ませるのはとても難しく、現在では、嘘偽りも混じりけもない真実の意味の「真」の字を当てるのが、漢字表記の主流になっています。

ジョ/ジョウの字は、山の芋の「薯」以外に、蒸すことから「蒸」もありますし、もちろんシンジョの字面全体の美しさで選ばれたりします。何を当てるかに決まりはありません。そう考えると「しんじょ」は、料理人の心を品書きにも忍ばせることができるという、日本料理の魅力の一端を感じられる言葉といえそうです。

【蛤しんじょ椀の作り方】

【材料(4人分)】
<蛤しんじょ>
ハマグリ……8個/白身魚のすり身……300g/山の芋(おろしたもの)……大さじ2/塩……少量/卵白……1個分/浮き粉……大さじ1/煮切り酒……30㎖/昆布だし……適量
<吸地>
カツオ昆布だし……600㎖/ハマグリの汁……100㎖/塩……少量/酒……少量
<その他の材料>
神馬草(じんばそう)……適量/菜の花……8本/花ミョウガ……2個/木の芽……適量
<分量外>
塩、酒、昆布だし、吸地八方(だし汁600㎖、塩小さじ1/2、薄口醤油10㎖を合わせて火にかけ、冷ます)

●作り方
<蛤しんじょ生地を作る>
①    砂出しをしたハマグリを鍋に入れ、酒少量(分量外)を加えて火にかける。殻が開けば取り出して、身を刻む。汁はネル地で漉す。
②    すり鉢に白身魚のすり身を入れ、なめらかになるまでする。ハマグリ以外の残りの材料を山の芋→塩→卵白→浮き粉→煮切り酒→昆布だしと材料表の順に加えてよく混ぜ合わせ、味とやわらかさを調える。
③    ①の刻んだハマグリを加えて混ぜる。
<あしらいの準備をする>
④    神馬草は水に漬けて戻す。熱湯にさっとくぐらせて、水に落とし、吸地八方に漬ける。
⑤    菜の花は塩茹でして、水に落とし、吸地八方に漬ける。
⑥    花ミョウガは縦半分に切り、せん切りにして水に落とす。
<仕上げる>
⑦    鍋に昆布だし(分量外)を沸かし、塩少量(分量外)を加えて、沸騰直前の細かい泡が立つくらいの火加減にする。蛤しんじょ生地を玉杓子に半分ほどすくって入れる。浮き上がったら一度裏返して、約5分茹でる。火が通ったら、ふきんを敷いたザルに上げて水気をきる。
⑧    吸地のカツオ昆布だしと、①のハマグリの汁を火にかけ、塩を加える。沸騰したら味を確かめて、酒を加える。
⑨    ⑦は⑧の吸地少量をかけて椀に盛る。吸地八方に漬けたまま火にかけて温めた神馬草と菜の花を添える。熱い⑧の吸地をはり、花ミョウガと木の芽をのせる。

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