日本料理のことば

ぜんざい【善哉】とは

ぜんざいとは、小豆餡(あずきあん)と餅を組み合わせた甘味(かんみ)です。関東と関西で人々の認識が異なり、関東では小豆餡に汁気がないもの、関西では汁気があるものをイメージする人が多いです。鏡開きや初午(はつうま)、節分などでよく賞味されますが、決まりはありません。そんな誰もが知っているのに、実はナゾの多いぜんざいについて、諸説ある由来と、地域差および別名について紹介します。

文:「辻󠄀静雄料理教育研究所」今村 友美 / イラスト:松尾奈央
(Factory70) / 協力:辻󠄀調理師専門学校

目次

「ぜんざい」の名の由来は、仏教と関係あり?

甘味としての「ぜんざい」の名が、どのようにして生まれたのか明らかではありませんが、一般的には「善哉(ぜんざい)」に由来すると考えられています。

善哉は、仏の教えをまとめたインドの経典に記されている「sādhu(サードゥ)」を、漢語に翻訳したことばです。賛成したり、感動して相手を褒めたりする時に使い、「善哉善哉」と二度繰り返すことが多く、単に「良いですね」というより、「その通り」「よくやった」「ご苦労様」というように、目上の人が若い人や弟子の善行に対して喜んで労うニュアンスがあるようです。

食べ物としての「ぜんざい」の記録は、室町時代中期成立の『尺素往来(せきそおうらい)※1』が古いです。「新年の善哉は是れ修正(しゅしょう)の祝着なり」とあり、新年の祝いで「善哉」なる食べ物が賞味されていたようです。
また、『言継卿記(ときつぐきょうき)※2』にある天文元年(1532)正月の項25日の記録にも、「善哉餅」を肴に酒を飲んだと書かれています。

当時のぜんざいがどのような食べ物だったか、文献からは分かりません。しかし仏教が庶民に普及し、禅宗が広まる時代と合致しており、仏教語の善哉が、食という日常生活に入り込んだ可能性は高そうです。

※1:年中行事や各種事物の話題を集めた手紙形式の往来物(学習書)。
※2:戦国期の公家・山科言継の日記。

一休さんが、「ぜんざい」を広めるきっかけに?

室町時代の禅僧・一休宗純、いわゆる「一休さん」の逸話にも、善哉が出てきます。
江戸時代前期に刊行された『一休ばなし』(1668年)には、ある俗人が一休禅師からその禅名の由来を聞き、感動して一首詠んだところ、「一休きこしめし、『善哉〳〵』とて尻餅ついてよろこびたまひて」——一休禅師は「善哉善哉」と言って、小躍りして喜んだとあります。この話に善哉餅は出てきませんが、尻餅が善哉餅からの連想のようにも思えます。

他にも伝聞として、ある人が小豆汁に餅を入れて一休禅師に差し上げると、禅師は「善哉此汁」と言って賞美したという話があります。小豆汁+餅という組合せが登場するエピソードで、これがぜんざいの由来になったとも言われます。真偽のほどは分かりませんが、一休禅師が存命の室町期には確かにぜんざいはありましたし、少なくとも一休の名にあやかる形で後世に広く伝わったとは言えるでしょう。

他に知られるのは、出雲発祥説です。出雲では神様の集まる10月(神在月〈かみありづき〉)に、小豆汁に餅を入れて祝う風習があり、その餅を「神在餅(じんざいもち)」と称したのが、発音がなまってぜんざいになったというもの。江戸時代以降に見られる説です。

このように由来には諸説ありますが、江戸時代には小豆+餅の甘味を指すことばとして、庶民に定着していました。正月に限らず、初午、節分、10月末日、誕生日などに食べた記録も見え、祝意が込められた食べ物だったと考えられます。

「ぜんざい」と「お汁粉(しるこ)」の違いとは

ぜんざいと似ているものに、お汁粉があります。どちらも小豆+餅の甘味を指しますが、小豆の状態によって、大きく分けて関東と関西で以下のような認識の違いがあります。

<関東>
粒餡で汁気がある…お汁粉(田舎汁粉・小倉汁粉)
こし餡orつぶし餡で汁気がある…お汁粉
汁気が少ない粒餡…ぜんざい

<関西>
粒餡で汁気がある…ぜんざい
こし餡orつぶし餡で汁気がある…お汁粉
汁気が少ない粒餡…亀山

<沖縄>
金時豆とかき氷…ぜんざい

餅以外に、白玉団子や芋、栗も用いられます。また変わり種として、小豆餡+かき氷をぜんざいと呼ぶところもあるそうです。

江戸後期成立の風俗誌『守貞漫稿(もりさだまんこう)』には、「京坂では小豆を皮のまま黒砂糖を加えて丸餅を煮るのを善哉といい、江戸では小豆の皮を除いて、白砂糖の下級品あるいは黒砂糖を加えて切餅を煮るのを汁粉という。京坂においても小豆の皮を除いたのは汁粉、または漉し餡の善哉という。江戸では善哉に似たものをつぶし餡という。漉し餡に粒の小豆をまぜたものを鄙(いなか)汁粉という」とあるので、すでに現在の名と一致していたようです。

大阪・法善寺横丁『夫婦善哉』のはなし

「ぜんざい」というと、織田作之助の『夫婦善哉(めおとぜんざい)』(1940年)に触れずにはいられません。大正、昭和の大阪を舞台としたこの作品には、実在する店が多く登場します。鍵となるのが、法善寺境内の『めおとぜんざい』というぜんざい屋(実在する店は漢字表記の『夫婦善哉』)。店の入り口に招き猫でも福助でもなく、阿多福※3(おたふく)人形が置かれている、なんとなくおかしみを感じる甘味処です。

※3:おかめ、おたやん、乙御前(おとごぜ)、三平二満(さんぺいじまん)とも言う。美人ではない顔相の女性。福福しいニュアンスを含むこともある。

主人公の男女が紆余曲折を経て『めおとぜんざい』に行き、一人2杯出てくるぜんざいを食べて夫婦の良さに気づき、心の安定を得るという結末です。「スウスウと高い音を立てて啜る」、すなわち汁気のある関西のぜんざいをしみじみ食べる描写は、まさに善哉(よきかな)といったところでしょう。

ちなみに先に紹介した『一休ばなし』には続きがあり、「三平二満」と「乙御前」の話が出てきます。三平二満は、十分を求めずとも満足する気持ちと、乙御前(おたふく)の意味をもつことばです。善哉とおたふく。偶然でしょうが、なんとなく気になる符牒です。

▼「辻󠄀調理師専門学校」の日本料理の先生による「ぜんざい(善哉)」の詳細はコチラ

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