日本料理のことば

吹き寄せ(ふきよせ)とは? 料理における意味

彩りよく、一つの器に盛り付ける「吹き寄せ」。代表的な八寸盛りの他、吹寄鍋や吹寄煮、紅葉や木の実を模したお菓子の詰合せなどに付けられることばです。表しているのは、秋の終わりに風が吹き、庭の隅へ木の葉が集う様。日本人ならではの心が宿る料理名です。

文:「辻󠄀静雄料理教育研究所」今村友美 / イラスト:松尾奈央(Factory70) / 協力:辻󠄀調理師専門学校

目次

現代における「吹き寄せ」の意味

吹き寄せは、「さまざまなものを寄せ集める」という意味のことばです。
料理用語としては、古いものでは吹寄汁(いろんな実が入ったすまし汁)、吹寄飯(五目飯の別名)などがあり、種々雑多な材料を加え混ぜた料理を示しています。

現在、献立で見られるのは、八寸盛りや吹寄鍋、吹寄煮といったもの。季節は秋から冬。旬の食材を数々用い、味・食感・色や形に変化がつくよう調理し、時には落ち葉や木の実を模したり、葉の焼き印を押したりすることもあります。
盛り方は、真・行・草のうち、型をくずして「草」に盛り込むのが常。器やかいしきにも心を配り、季節の兆しや移ろいが伝わるように仕立てるのが肝要です。

現代では、単に「雑多に寄せ集まる」というより、強い秋風や初冬の木枯らしに吹かれ、木の葉がつむじを描きながら集積するようなイメージの料理に「吹き寄せ」ということばを用います。実りの秋が訪れ、青葉は黄から赤みを帯びて繚乱となり、次第に冬の準備として葉を散り落とし、やがて草木はうら枯れて色の褪(さ)めた世界が訪れるのを予感させる——そんな冬枯れ直前の情景と気配を、食べ手に想起させます。


「吹き寄せ」の起源

料理の吹き寄せは、元は菓子に由来すると言われますが、ことば自体はそれ以前からあり、起源についてはなんとも言い切れないところです。菓子の吹き寄せは、秋の植物を模した色とりどりの菓子が、籠や箕(み:木の皮などを編んで片口型などにし、U字の縁をつけたもの)を模した器などに盛られ、10~11月の茶会で好んで供されます。八寸盛りと仕立て方が似通っているので、着想の元となったのかもしれません。


日本特有の「あわれ」や「わび」

吹き寄せの情景を風雅であると尊ぶ感覚は、古くから芽吹き、育まれてきました。例えば『枕草子』の「野分のまたの日こそ」の段は、晩秋から初冬のころ、強い風が吹いた翌日の景にいだく情趣を書いたものです。塀や木や庭の植え込みが倒れた無惨な様子に心を痛めながら、一方で、木の葉が格子のひと間ひと間にまるで人の手で集めたように入念に吹き込んであるのを見て、暴風に対し、自然の猛威とは別の力を感じ取っているように思えます。

落ち葉一つない庭よりも、適度に葉の落ちた庭こそ良しとする美意識を、いわゆる「あわれ」と呼ぶのでしょう。欠点をあえて含むことで、俗事から離れて風雅を感じる心が生まれ、やがて中世には、不完全の美ともいうべき「わび」「冷え枯れる」といった美意識が注目されるようになりました。

命が芽吹き、力が充溢して軽やかに躍動する様は、華やかで美しいもの。そして、ひとたび盛んとなっても、必ず衰える時がくると知れば、その中になんとなく寂しさを覚える。枯れた渋い趣を前にして、内側からにじみ出てくるような豊かな情趣もまた美しい。日本人の心は、季節の移ろいに敏感でした。

近年は節目を共有する機会が少なくなったこと、また気候の異変などで、暦と自然のリズムが合わないことなどから、季節の移り変わりがもたらす美意識が希薄化すると懸念されています。そんな時代において、吹き寄せから受ける季節感は重要な役割を担ってくれそうです。

余談ですが、吹き寄せを春に作り、貝類を盛り込むと、「貝寄せ」という名に変わると考える料理人もいます。冬の季節風の名残、3月下旬ごろ吹く西風のことを「貝寄風(かいよせ)」と呼び、浜辺にもろもろの貝が吹き寄せるそうです。秋の吹き寄せとセットで覚えておいてもいいかもしれません。

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