「銀座 小十」のエスプリ

【レシピ付き】桜咲く、春の歓びを謳う ――うすい豆摺り流し 海老真丈椀&春巻き

4月は春の真っただ中。この時季の日本料理のコースは、やはり桜が主題となります。『銀座 小十』でも「待ち望んでいた春」を楽しんでいただこうと、花見の趣向を取り入れてお客様を迎えます。奥田さん曰く、「4月のテーマカラーは、淡い緑色、黄色、そして桜のピンク色」。付出しからすり流しのお椀、造り、揚物、強肴、食事まで春色で美しく彩ったコースの締めくくりは、華やかなイチゴのグラスデザートにロゼ・スプマンテを注ぐ、という演出を。奥田さんらしい、直球の真っ当さと意外性のコントラストが冴えるコースのハイライトをご紹介します。


奥田 透(おくだ とおる):1969年、静岡県静岡市生まれ。静岡、京都、徳島で約10年間、日本料理を学ぶ。29歳で地元・静岡に『春夏秋冬 花見小路』を開店。2003年に東京・銀座に移り『銀座 小十』をオープン。2011年、銀座五丁目並木通りに『銀座 奥田』をプロデュース。12年6月同ビルに『銀座 小十』を移転する。13年にフランス・パリ、17年にはニューヨークに『OKUDA』を開店。本物の日本料理を海外で提供するという挑戦を始める。近刊に、『日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか』(ポプラ社)、『献立にみる日本の節供と守破離のこころ 銀座小十の料理歳時記十二カ月』(誠文堂新光社)ほか。

聞き書き:瀬川 慧 / 撮影:大山裕平

うすい豆摺り流し 海老真丈——すり流しは、だしの段階で調味することで味がブレません

gin0013a[料理] うすい豆摺り流し 海老真丈 白魚酒蒸し 筍 独活 木の芽
[うつわ] 明月椀 輪島尚古堂

4月のコースは、揚げ湯葉にホタルイカや白エビなどをトッピングした付出しで始まり、ホワイトアスパラガスと2種の貝の黄身酢掛けが続きます。コースの流れは春爛漫を感じる旬味の連打で、意表を突くオリジナリティも満載ですから、その後に出すお椀は、あえてきりっとクラシックに渋く仕上げます。

お椀は一年で12回お出しするでしょう。その中でメリハリをつけるとなると、この時季には澄ましではなく、桜エビのピンクやうすい豆の淡い緑を生かしたすり流しで、春独特の色合いと味わいを演出するのがいい。薄く葛を引いた喉ごしのいいお椀の中に、季節の色が溢れています。

うすい豆は裏漉しすると、一番味の濃い皮の旨みを捨ててしまうことになりますから、フードプロセッサーを使います。機械はあまり好きではなかったのですが、この方が味も濃く出て色も鮮やかになりますね。

お椀のだしは、提供する直前に一組ずつカツオ節を削るところから始めます。そして、塩と薄口醤油で味を決めてから、うすい豆を加えます。逆にすると、塩加減が分かりづらくなるんです。また、味見は必ず塩を加えた段階でします。だしと塩の関係だけできちんと味を決めてから、薄口醤油を加えると味がブレません。この時、大切なのは、お椀を一杯飲み終えた時にちょうどよい加減にすることです。

私は、味見は2度と決めています。集中力が大事で、迷ったものは結局、迷った味になってしまいます。
同じように茶碗蒸しやだし巻き玉子の場合も、最初のだしの段階で味を調えます。卵を合わせてから塩をしても、卵が膜を張って味が分かりにくいですからね。

実は最近、海老真丈を桜の型に抜くような、かつては古く見えた仕事もいいな、と思うようになりました。白魚の三ツ葉結びも、和食独特の繊細な仕事です。一人で店をやっている方は、どうしても花形の食材をドーンとお出しするというような仕事が主になってしまうでしょう。でも、こうした昔ながらの仕事も忘れないでいただきたいんです。

日本料理は国技と一緒ですから、一人で完結するのではなく、誰かに伝えていかなくてはならない。手の込んだ仕事は、その緊張感がちゃんとお客さまにも伝わります。若い子もそうした仕事に触れて「きれいだな」「かっこいいな」と思うわけです。そう思わせることが、五十路になった私のような日本料理人の使命だと日々感じています。

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