大阪『本湖月』うつわ十二カ月

四月は「花見」を主題に、料理もうつわも花宴の趣向で

2021.04.22
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連載:大阪『本湖月』うつわ十二カ月

桜に心躍らせる四月は、一年の中でも最も華やかな月。大阪・法善寺横丁『本湖月』では、料理もうつわも、しつらえも花宴の趣向となり、「お花見」を主題に桜づくしでお客様を迎えます。料理人歴50年、数寄者としても知られる主人・穴見秀生さんに、四月ならばこそと選んでいただいた三点のうつわを、一つ一つご紹介いただきます。

文:西村晶子 / 撮影:竹中稔彦

田楽──鄙の料理を大阪発祥の古陶に盛って

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四月は春とはいえ花冷えの頃でもあります。昔はお花見の時に、冷えた身体を温めるものをと、田楽を食したそうです。その古事にちなんで、私どもでも田楽をお凌ぎにお出ししています。田楽は、田植えやお祭の時に豊作祈願する田楽法師の白い袴(はかま)姿が、豆腐に串を刺した形に似ていることから名が付いたと伝えられています。

うつわは田楽を盛るために造られたもので、私どもでも一年にこの季節だけお出しします。「吉向焼(きっこうやき)」初代の作で、蕗(ふき)味噌田楽の鄙びた味、野趣ある姿にぴったりの風情です。初代は楽家9代・了入(りょうにゅう)をはじめ、初代・清水六兵衛や仁阿弥道八(にんあみ どうはち)らに作陶を学んだ後、大阪・十三に窯を構えました。その「吉向松月窯」は、今は交野市にあります。大阪にこのような古窯があることはあまり知られていませんが、昔は財力のある商人がいてお茶の文化が育ち、いい職人がたくさんいたんですね。

実はこのお料理は、串の青々とした色が何よりのおもてなしです。ですから私どもでは、青竹を削って串を作っています。
料理はお客様から見て豆腐を手前に、串を向こう側にしてお出しします。不思議に思われるお客様も多いのですが、「豆腐は崩れやすいものなので、口元に一番近い方を豆腐にし、蓋を受け皿にしながら召し上がってください」とご説明させていただくんですよ。

IMG_1877.JPG 凌ぎ/蕗味噌田楽 うつわ/田楽箱(吉向焼)

椀物──月明かりに息づく夜桜を映したお椀で

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椀物は懐石のメインディッシュで、お椀は日本料理独特のうつわです。スプーンで味わう西洋のスープと違って、日本はお椀に直接口をつけ、まず香りとだしを味わっていただきます。木のうつわは熱の伝導が優しく、手に持っても熱くないですから。

喉を潤すだしが主役の吸い物と違い、煮物椀は椀種(わんだね)が主役です。よって、お椀は椀種が映え、香りがふわっと立ち上がる大ぶりなものを選び、月ごとに替えています。私の好みは、外が無地で内が蒔絵(まきえ)をほどこしたお椀。蓋を開けた瞬間に料理と共にうつわの景色も楽しんでもらえるよう、いろいろな趣向や遊び心を忍ばせています。

四月のお椀は、筍の真薯(しんじょ)を、表に花びらを写した「夜桜蒔絵椀」でお出しします。現代は夜桜もライトアップされて明るいですが、このお椀に描かれているのは、月あかりで見る桜の姿。模様の部分を肉上げして陰影を生み、光の当たる部分を金粉で表しています。蓋を取ると、内側には純金の粉が散らしてあり、朝焼けのような黄赤の曙色(あけぼのいろ)。枕草子の冒頭の「春はあけぼの」を想い出します。

ほかに桜のお椀は内側全面に桜を描いたものもあり、こちらは陽の光を浴びて咲く満開の桜です。
華麗であったり、神秘的であったり、桜のうつわには一つ一つにストーリーがあり、桜ひとつにさまざまな想いを秘めた職人の仕事が見てとれます。こうしたお椀を手に取るたびに、自分もそれに恥じぬ仕事をしなくてはと思います。

IMG_1858.JPG椀物/筍真薯 うつわ/夜桜蒔絵椀

八寸──花見にちなんだ水間焼を、高坏に配して

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四月の八寸は、桜の情景が浮かんでくるようなうつわと料理の取り合わせを考えます。
脚台を備える高杯(たかつき)は、雛(ひな)道具でご存知と思いますが、身分のお高い人に献上するためのうつわです。今の時代には無用の長物ですが、非日常を味わっていただくにはぴったりのお道具で、四君子(しくんし※)の花紋を梨子地(なしじ)と呼ばれる技法で描き出しています。これでお客様にお殿様やお姫様の気分になっていただき、鼓(つづみ)の形をした取り皿をお付けします。

高坏の上には、金箔(きんぱく)竹皮と、桜葉、雪洞(ぼんぼり)をかたどったうつわを用いました。金箔竹皮は尾形光琳の花見の逸話から、『𠮷兆』の創業者・湯木貞一が春や祝いのうつわにしたものです。光琳が嵐山に花見に行った際、まわりが贅を尽くしたお弁当を広げる中、一人竹の皮から取り出しておにぎりを食べていました。それを見た人たちが嘲笑していたのですが、食べ終わって皮を川に流すと、その内側に金銀で蒔絵が施され、見事な景色だったという逸話です。

桜の葉皿と雪洞のうつわは、「水間(みずま)焼伏原窯」のものです。京焼を思わせる精緻で手間暇のかかったうつわで、窯は大阪・貝塚市にあります。大阪・曽根崎にあるうつわ工芸店『ようび』の真木啓子さんとの出会いから、この10数年は古清水をベースにした食器を作っておられます。桜葉皿は表情豊かに、雪洞は紙のように薄いものが欲しかったので、オーダーして作ってもらいました。

※蘭(らん)・竹・菊・梅の4種の草木のこと。日本料理の世界ではめでたいものとされている。

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IMG_1925.JPG八寸/みる貝、才巻海老塩ウニ、さより黄身寿司、白魚一夜干し、片栗、一寸豆 うつわ/行燈、桜葉皿(水間焼伏原窯)、金箔竹皮、四君子蒔絵高杯

桜を想いながらお楽しみいただく四月の器はいずれも美しく華やかですが、ともすればそれは儚さにもつながります。桜の花が散り、春の饗宴も終わり、いつか行く春。ひと月限りゆえ、この時季ならではのうつわを選び、趣向を考えます。その時間はとても楽しく、日本料理の料理人としての大事な務めと私は思います。

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