和食のいろは

【一覧表付き】初夏(5~6月)が旬の魚介

関西で初夏の魚といえば鱧。特に出始めは、皮が薄く骨も細いので、もっちりした鱧ちりが楽しめます。全国的にはマアジ。瀬戸内や日本海沿岸の穴子も初夏の訪れを告げる人気の魚です。香魚とも呼ばれる鮎をはじめとする川の魚も存在感を示す、5・6月が旬の魚介を一覧でご紹介。「辻󠄀調理師専門学校」日本料理主任教授を務めた畑 耕一郎先生と、創業40余年の北新地の名割烹『味菜』店主・坂本 晋(すすむ)さんに、代表的な魚介の美味しい調理法も解説いただきます。プロの方も、献立を考えるために、ぜひご活用ください。


畑 耕一郎(はた こういちろう):大阪生まれ。「辻󠄀調理師専門学校」理事・技術顧問。「大阪料理会」会長。TBS「料理天国」やABC「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」などの多くのTV番組に出演。『プロのためのわかりやすい日本料理』(柴田書店)など著書も多数。


坂本 晋(さかもと すすむ):岐阜県高山市出身。18歳から下呂温泉『吉泉館』で修業し、大阪・北新地の料亭『神田川』へ。割烹『味菜』を開店し、40余年が経つ。淀川や大阪湾の地魚に注力しながらも、全国各地から産地直送で旬の食材を取り寄せ、割烹料理に仕立てる。

文:小林明子 /  料理制作:大阪・北新地『味菜』 / 撮影:東谷幸一
2022.05.11配信記事を更新

初夏(5~6月)が旬の魚介の特徴とは?  

春の名残の魚と、夏の走りの魚が混じるのが5~6月。2つの季節の魚が入手できる時期でもあります。

雪解け水が流れ込み、栄養価が増す川では、鮎やアマゴ、イワナなど、丸ごと食べられる香りの強い魚が美味しくなります。海では太刀魚や穴子、鱧などの長い魚の旨みが増していきます。

全体的に、初夏の魚は秋冬のものと比べるとさっぱりした味わい。脂を楽しむというよりは、舌ざわりやのど越しの良さ、香りや旨みを楽しむ魚が中心です。

初夏の到来を告げるのは、各地の河川で6月前後に解禁される清流の女王、鮎。関西では、琵琶湖の鮎がポピュラーですが、川に上らず琵琶湖に棲み続けるものは魚体が大きくならず、10㎝程度でも子を持ちます。一方、琵琶湖に流れ込む川に遡上したり、他地域の河川に放流された鮎は大きく育つとされています。

海における初夏の魚の代表格は鱧。俗に「梅雨の雨水を飲んだ鱧は美味しくなる」と言いますが、当然そのままの意味ではなく、大量の雨が川から流れ込んで養分が豊富になった海でプランクトンの繁殖が活発化。それらを食べて肥(ふと)った小魚やエビ類が鱧の良いエサになるからという意味。関西では、淡路島から徳島、和歌山にかけての紀伊水道域で育った鱧が好まれます。

初夏(5~6月)が旬の魚介一覧

名前(カタカナ) 漢字表記 別名または同種
甲殻類
クルマエビ 車海老、車蝦 サイマキ(才巻・細巻・鞘巻、小ぶりのもの)
ウニ 雲丹、海胆、海栗  
軟体類
アオリイカ 障泥烏賊 ミズイカ (水烏賊)、モイカ(藻烏賊)
マダコ 真蛸  
海水魚
ハモ  
マアジ 真鯵 ヒラアジ(平鯵)、トツカアジ、ゼンゴ(小アジのこと)
イサキ(イサギ) 伊佐幾、伊佐木  
タチウオ 太刀魚、魛、立魚  
アコウ 赤魚、茂魚、石茂魚、阿古、阿候、緋魚 キジハタ(雉子羽太)、イネズ(ヨネズ)
スズキ セイゴ(1歳魚)、フッコ・マダカ(2~3歳魚)
マアナゴ 真穴子  
カツオ ハツガツオ(初鰹)
淡水魚
アユ 鮎、香魚、年魚 ヒウオ(氷魚、稚魚のこと)
アマゴ 雨子、雨魚、甘子、天魚  
ヤマメ 山女、山女魚  
貝類
イワガキ 岩牡蛎、岩牡蠣 ナツガキ(夏牡蛎)
サザエ 栄螺、  
トリガイ 鳥貝  

初夏の魚の代表選手は?

初夏の和食の献立に欠かせない、代表的な魚5種。その特徴や種類、それぞれの持ち味を生かしたシンプルな調理法をご紹介します。

初夏の訪れを告げる、鮎

鮎の解禁日は河川ごとに決められていますが、多くは6月1日前後。なかには5月に解禁される河川もあります。
解禁までは、早春の氷魚(ヒウオ)、晩春の稚鮎を楽しみます。ヒウオは釜揚げにするとよく、稚鮎は揚げ物に限る、と畑先生は話します。

解禁から約1カ月間の旬味として知られるのは、お造りとして出す背越し。香魚という字にも表れる通り、スイカやキュウリに例えられる爽やかな香りが楽しめる一品です。
解禁直後は身の香りも豊か。ワタの苦みと共に味わうなら、やはり姿焼きが一番です。この時、気を付けたいのは、ヒレの化粧塩は軽くつける程度に留めること。「真っ白に化粧してしまうのは、感心できません」と畑先生。

鮎の塩焼き
『味菜』では、胸ビレと尾ビレに軽く塩を付け、均一な焼き色をつけるため、あまりうねらせずに細串を打って焼き上げる。

遠赤外線が出る炭火では、頭を下に立てて焼くことができます。身体の脂が下に落ちて、硬い頭の骨を揚げる感覚でカリカリに焼き上げてくれます。ガス火で焼く場合も、尾の下に台などを置いて魚体を傾け、脂が頭の方に流れるように工夫すると美味しく焼けます。

何より大事なのは焼きたてであること。そして、頭からかぶりついた時、骨をガリッと噛み砕く音が脳天に響くぐらいしっかり焼くことです。「口の中が火傷しそうなぐらい熱々の鮎の苦みを、キンキンに冷えたビールで流す。この美味しさを教えてくれたのは、『𠮷兆』の湯木貞一さんでした。鮎の塩焼きにはビールがいいとお薦めしてくれました」と畑先生。

10㎝ぐらいの鮎はフライにしても美味しいもの。目の細かいパン粉をつけて揚げ、タデ塩でいただきます。ポン酢や醤油もよく合います。

鮎のフライ
細かい衣を付けて、軽やかな食感に。「海背川腹」に則(のっと)って背を前に盛り、タデ塩で。

アコウは洗いか、酒蒸しか

高級魚として知られるアコウは、キジハタが正式名。地方名が多く、大阪では古くからアコと呼ばれてきたそうです。
生息域は青森県以南の日本海や太平洋にかけてと広く、大阪湾で1キロ越えの大物が挙がることも珍しくありません。この大物は「魚庭(なにわ)あこう」として近年、ブランド化もされました。

造りなら、身には歯を跳ね返すほどの弾力があるので、そぎ切りにして洗いにするといいでしょう。サッと湯引きや湯洗いにするというのも手です。アコウは底ものなので、独特の磯の匂いがあり、これを軽く洗い流すという意味もあるのだそう。

実は、洗いは簡単なようで難しい調理法。「洗濯機みたいにかき回すなんてのは言語道断。旨みが流れ出てしまいます。冷水の中で優しく、かつ手早く洗うのがコツです」と畑先生。
『味菜』では「活かりけの強いものは湯洗いにしてから氷水で洗いに。いかり気が弱いものは、流水でしっかり洗います」。

アコウの洗い
この日のアコウは800g。活かりけが強いので、極ぬるい湯に潜らせてから洗いに。煎り酒で。

火の通った皮の味も秀逸なので、1kg超えの大物は特に、酒蒸しや昆布蒸しにすると美味。酸味ひかえめのポン酢がよく合うとお二人は言います。
また、小さめのアコウは煮付けにも。ホロッホロッと身離れする、食べやすい肉質を持つ魚です。 

アコウの昆布舟
『味菜』の名物、アコウの昆布舟。昆布を舟形に組み、アコウのぶつ切りを入れて蒸し、途中で酒を振って蒸し上げる。ポン酢を添えて。

狙うは、太刀魚のドラゴン

全国津々浦々で揚がる太刀魚ですが、瀬戸内海または西日本の外海が好漁場として知られます。獲れたての太刀魚は、磨いた銀器のようにピカーッと輝いていますが、傷みが早く、鮮度が落ちると表面の銀色がはげ落ちてきます。底引きで獲れたものは表面が傷みやすいため安値で販売されることが多く、逆に1本釣りの太刀魚は高価です。

1㎏超えの大物がいいとされますが、多くの料理人が狙うのは、別名ドラゴン。太い部分が大人の掌の横幅ぐらい、7~8㎝もある超大物です。キバのような鋭い歯を持つ、白銀色に輝くドラゴンは2㎏を超えることもあります。

1㎏超えの新鮮なタチウオが手に入ったら、シンプルに食すのが一番。皮付きのまま切り分ける刺身がご馳走とされます。塩焼きも美味しく、皮と身の間の旨みや甘みが楽しめます。

太刀魚の造り2種盛り
この日、『味菜』に届いた太刀魚は正真正銘のドラゴン。皮をすき、拍子木切りにした身と、皮付きの焼き霜、2種の造りを盛り合わせて。

肉厚な、丹後のトリ貝

十数年ほど前から出回るようになったのが、京都府の舞鶴や宮津など若狭湾内で1年かけて育成されるトリ貝。殻の大きさは約10㎝。噛むとキュッキュと音を立てるほどの弾力を持つ身は驚くほど大きくて肉厚です。
晩春から徐々に出回りますが、主となるのは5~6月。今や全国から引き合いがあり、6月には売り切れご免になる年も少なくありません。

大阪湾の地の魚介を積極的に使う『味菜』では、この時季、泉州のトリ貝を応援。「丹後に比べると小さいですが、肉厚で、味の面では引けを取りません」と坂本さん。

甘みの強い身は刺身で味わいたいもの。酒と醤油を表面に塗り、炭火のコンロ(七輪など)でサッと炙るのも良く、甘みがさらに引き出せます。

初夏の立役者は、鱧

出始めの鱧は皮が薄くて身がやわらかく、骨も細いので、大阪では“ちり”、京都では“落とし”と呼ばれる湯引きが向きます。

湯引きとは言うものの、グラグラ沸いた熱湯を使うのは厳禁。鍋の底から泡がポツポツ立つ程度、温度で言うなら90℃前後の湯を使います。ジャボンと一気に投入するのもご法度。網じゃくしに骨切りした身の皮側を下にして並べ、まずは皮の部分だけを慎重に湯に浸します。皮がキューッと縮んできたら全体を沈め、頃合いを見極めて引き上げます。時間が長すぎては旨みが流れ出る、短すぎても歯ざわりが悪い。タイミングが大事です。

冷水に取った後は、しっかり水気を切ります。1切れ1切れをキッチンペーパーで包み、優しくふき取ると良いでしょう。

鱧ちり
この日の鱧は500~600gと頃合いの大きさで、骨が柔らかく、皮もほどよい弾力。湯引きにし、梅肉と酢味噌を添えて。

「鱧には骨切りが欠かせませんが、1寸に対して25回庖丁を入れるなどといった型通りの仕事では美味しい湯引きは作れません。皮の厚み、骨の強弱の違いで庖丁数を変えるのが一流の仕事です」と畑先生。

最近は鱧を炙りにする傾向がありますが、こちらも塩梅が実は難しいとか。やりすぎると焦げ臭く、足りないと生臭くなる。皮目を香ばしくなるまでしっかり炙って、身は温いぐらいが良い塩梅だと、お二人は口を揃えます。

葛打ちの鱧を椀種にするのも、この時季の旬味。葛を打ちすぎると、もたついた食感になってしまうので、骨切りした身の間にも丁寧に、極薄く付けて、しっかりはたくことが肝要です。畑先生曰く「お椀の鱧は、湯の中で花びらのように開かせてこそ。ぜひ薄化粧を心がけてください」。

初夏の鱧は500~600g、ウナギより少し大きいぐらいのサイズが主流です。6月の終わりになると800g~1㎏越えもお目見えし始めます。そこまで育った鱧は、口いっぱいにほお張れるぐらいのサイズに切って、玉ネギと一緒に鍋にするのも良いでしょう。この「はもすき鍋」は泉州鍋とも言われ、大阪の泉州の郷土料理として知られます。魚すき感覚の鍋汁を仕立て、玉ネギをたっぷり加えます。

鍋のだしは、鱧の頭や骨から取るといいでしょう。鮮度が良ければ、軽く塩を打ち、霜降りしてから煮出すと、爽やかな良いだしが引けます。焼いた骨などで引くと、香ばしく濃いだしになります。

鱧は皮も美味。昔はよく蒲鉾(かまぼこ)屋の店先に、風干しした鱧の皮がぶら下げられていました。残っている小骨を丁寧に取り除き、細かく刻んでキュウリなどと酢の物にした「鱧ざく」は大阪の夏の味です。

【まめ知識】淡路島の鱧はなぜ美味しい?

淡路島で水揚げされる鱧は、身が引き締まっていて小顔、スタイルも良いいことから「べっぴん鱧」とも呼ばれています。金色の魚体を持つことから「黄金鱧」の別名を持つ鱧もあります。

主な漁場として知られる沼島(ぬしま)の漁法は延縄(はえなわ)。傷をつけないよう丁寧に釣り上げます。また、いかに生命力が強い鱧とはいえ、長く延縄に掛けたままでは弱ってしまうので、漁師たちは夜中に出港。なるべく短い時間で仕掛けから引き上げようと船を走らせます。

沼島近海で育つ鱧の皮がやわらかいのは、海底がやわらかい砂地だから。身は、鳴門海峡の早い流れにもまれて引き締まります。新鮮な海水が常に供給されているため、エサとなる甲殻類や魚が豊富なことも、美味しい鱧を育む所以です。

➡ご紹介した料理のレシピは、「『味菜』の割烹料理 初夏の魚介編」で配信。店主・坂本 晋さんの調理指南にご注目を!

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