夏の和食に彩りを添える飾り葉・青かいしき
料理の盛り付けに使われる葉や植物を指す「かいしき」。漢字では「皆敷」「掻敷」「苴」などの文字を当てます。料理の飾りにして季節感を演出したり、彩りをプラスしたりする効果があり、特に和食でよく用いられます。今回は、イチョウや笹、蓮(はす)の葉など、夏によく使われる青かいしきについて、また、かいしきの始まりについて、「辻調理師専門学校」日本料理主任教授を務めた畑 耕一郎先生に解説していただきます。
畑 耕一郎(はた こういちろう):大阪生まれ。「辻調理師専門学校」理事・技術顧問。「大阪料理会」会長。TBS「料理天国」やABC「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」など多くのTV番組に出演。『プロのためのわかりやすい日本料理』(柴田書店)など著書も多数。
季節感の演出に欠かせない飾り葉、かいしきとは?
かつて日本では、葉や、草木の弦(つる)を編んで窪(くぼ)み状(窪手)、平皿状(平手)にし、器のように用いた時期がありました。そして土器ができると、その土のにおいが食べ物に移るのを防ぐため、土器の上に葉を敷くようになったとされています。これが、和食のかいしきの始まりとされています。葉の種類によっては防腐、防臭など薬効があるものもあります。葉だけでなく、花、むき物細工、和菓子などで使われる敷紙もかいしきですが、現在では、緑の彩りを添えて季節感を表す、料理に対する演出を指すことが多いです。
夏に用いられる「青かいしき」
夏は、木や野菜の葉も太陽を浴び、緑の色も濃さを増します。器に敷いて、緑の濃淡で料理に彩りを添える葉を「青かいしき」といいます。馴染みのあるイチョウや笹の葉の他、ナスやキュウリなどの野菜、朝顔の葉、ホオズキなどが使われます。
ここからは、6~8月頃に使われるかいしきを紹介します。
※春(3~5月)のかいしきについてはコチラをご覧ください。
※秋(9~11月)のかいしきについてはコチラをご覧ください。
※冬(12~2月)のかいしきについてはコチラをご覧ください。
ナスの葉
咲いた花の数だけ実を結ぶナスは、瑞々しい夏野菜の代表として多用されます。茄子紺(なすこん)の葉脈は、器の上のアクセントにもピッタリです。
キュウリの葉
黄色い花をつけるキュウリ。実だけでなく、掌状で浅く切り込みが入る葉も清々しいイメージで、演出に一役買います。
葛の葉
秋の七草の一つ。蔓(つる)に3枚の葉が扇状に開いて茂ります。丈夫なので、大きさによって器の代わりに、または器の下に敷いて、漆器の傷防止に使うこともできます。
梶(かじ)の葉
神に捧げる木でもある梶。この繊維から紙や布が作られていたことから、七夕では梶の葉に願い事を書いたといいます。お茶の世界でも涼を演出するために梶の葉を水指の蓋とするお点前も。夏のかいしきの象徴です。
桑の葉
6月になると赤い実をつける桑は、夏を代表する植物です。葉の表面はツヤがあり、形は写真のように深い切り込みのある梶に似たものから、楕円形のものもあります。
楓(かえで)の葉
紅葉(もみじ)で知られる植物。秋は黄や赤に色づいたものを使いますが、初夏から秋口までは鮮やかな緑色で涼を誘います。
銀杏(いちょう)の葉
黄色いイメージの銀杏も、美しい緑色はこの時季ならでは。落葉樹の中でも遅く葉を散らすので、夏が終わると緑から黄色のグラデーションが現れ、季節の移ろいが感じられます。
蓮(はす)の葉
蓮根の葉。大きなすり鉢状になっているため、うつわとして、逆さにして鉢盛り料理の蓋として用います。下に氷を敷いて造りやハ寸を盛ると、夏ならではの景色が楽しめます。8月のお盆の頃によく使われます。
笹の葉
竹の生育が早いことから、成長を願う料理には欠かせません。大きな葉は粽(ちまき)や包み料理に用いることも。この時季の小笹は鮎の塩焼きに添えられることが多いです。
朴(ほお)の葉
大判のうちわ形で殺菌作用もあるため、古くから食材を包んで保存用に使われてきました。生葉は寿司や焼き物を包んで甘く青々しい香りを楽しみます。乾燥葉には、味噌や食材をのせてそのまま加熱すると、野趣ある焼き物となります。
かいしきの使い方
日本料理店で実際に使われているかいしきを紹介します。敷く、料理にそれとなく添えるなど、さまざまな演出が食べ手を楽しませます。
マグロの焼き霜に添えられたカエデの葉。涼感が漂う。(協力:『京料理 清和荘』/撮影:下村亮人)
器に笹の葉を敷き、伝助穴子の焼き物をのせて。穴子の存在感がより引き立つ。(協力:『東心斎橋 やつづか』/撮影:下村亮人)
夏野菜のゼリー寄せのガラスの器に、桑の葉の蓋を。お客自ら葉を外すという演出も楽しい。(協力:『萬亀楼』/撮影:香西ジュン)
蓮の葉を使った先付。鱧の落としや車エビ、夏野菜などをのせて。ジュンサイや土佐酢のジュレで水滴を表現。(協力:『富小路 やま岸』/撮影:塩崎 聰)
盛り込みには、大胆に使用されることも。左はカエデの葉(協力:『日本料理 希粋』/撮影:太田恭史)と、右はキュウリの葉(協力:『下桂茶屋 月波 本店』/撮影:下村亮人)。
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