昆布はどうなる?

『吉田屋鱒寿し本舗』の、昆布を使った新・ます寿司

昆布〆、昆布巻き、昆布かまぼこ、昆布餅など、昆布を使った郷土料理が日常に深く浸透している富山県。新たな昆布料理はないものか……そう考えてリサーチしたところ、富山の名産品「ます寿司」や和菓子の「おはぎ」に昆布を掛け合わせた商品が人気を集めているといいます。ありそうでなかった組合せに辿り着いたその経緯、想いとは。これから「昆布料理はどうなる?」のか、昆布の活用、調理や食べ方のヒントを求め、まずは富山市の老舗『吉田屋鱒(ます)寿し本舗』を訪ねました。

文:坂下有紀 / 撮影:田中祐樹

暖簾を守り、味を継ぐ三代目の挑戦

早朝5時、まだ街が眠りから目覚め切らぬ頃、すでに仕込みの真っ只中にある『吉田屋鱒寿し本舗』を訪れた。富山の新たな昆布料理として注目されている、ます寿司の製造現場を見学するためだ。

ます寿司といえば富山を代表する土産品、全国に名を馳せる駅弁の代表格。『吉田屋』のます寿司も駅や空港などで人気が高く、納品に間に合わせるため職人たちの朝は早い。

aます寿司とは、塩漬けしたマスを使った押し寿司の一種。一般的に、木製の曲物(まげもの/わっぱ)に笹を放射状に敷いてマスの切り身を並べ、その上に酢飯を詰めて作る。発祥は江戸時代半ばに遡るが、富山名産として全国的に知れ渡ったのは大正時代に駅弁として売り出されてから。富山でも家庭で作るより専門店で購入するのが一般的で、日常食というよりハレの日の食べ物。祭り、お盆、年末年始などに食卓に上がり、お土産や贈答に用いられる。

b店ごとにマスの厚みや味付け・並べ方、酢飯の塩梅などに個性があり、富山の人にはそれぞれ贔屓(ひいき)のます寿司屋が存在する。『吉田屋』では前日のうちにマスをおろして塩漬けにし、翌朝に酢で軽く〆る。マスの身は肉厚で酢は控えめ。酢飯の酢の塩梅も控えめでほどよい甘みがあり、全体にまろやかな仕上がり。

「うちは戦前から川魚の鮮魚店を営んでいて、祖父が戦争から戻った後、1946年からます寿司の専門店を始めました。富山県内には数十軒のます寿司屋がありますが、その多くが富山市内で、うちと同じように神通(じんずう)川の川辺にあります」と、三代目・吉田正寿(まさとし)さん。

その理由は、神通川では古くから川舟で鮎やマスなどを獲る川魚漁が行われ、ます寿司には神通川を遡上してきたサクラマスを使用していたから。ます寿司は、富山藩士で料理人の吉村新八が作った鮎の鮓(すし)がルーツとされ、鮎鮓を気に入った三代目藩主・前田利興(としおき)が、将軍・徳川吉宗に献上して賞賛を得たことから名物として知られるようになったという。

その後、鮎の代わりにサクラマスを使うようになり、現在のます寿司の原型となったというのが通説。また、神通川に近い鵜坂(うさか)神社で春に獲れた「一番鱒」を塩漬けにして供えた神事に由来するという説もある。

sashikae7860d神通川に架かる富山大橋のたもと、富山市内を走る路面電車の通り沿いにある『吉田屋鱒寿し本舗』の三代目・吉田正寿さん。

北陸新幹線の開業を機に生まれた「昆布鱒寿し」

吉田さんは27歳の時に父親を亡くし、家業を継承した。それまで継ぐことは意識してこなかったが、決断してからは伝統の味を守りつつ、時代に合ったやり方を模索。新商品の開発にも力を入れた。

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