上野修三の古典

【レシピ付き】卵をいかに料(はか)るか? 飯(いい)ダコの割烹仕事

春先からは雌(めす)が卵を持ち、これが飯粒のようだとしてその名が付いた飯ダコ。今となっては子持ちの雌は高級食材ですが、「昔は家庭の味やった」と上野修三さん。けれど、春のひと時だけの旬味。なんとか割烹らしく料(はか)りたいと“卵の食感が生きる”調理法を模索したそうです。なかでも評判が良かった三品を、今回はご紹介。湯引き、七分(ななぶ)煮の煮浸し、そして生を味噌漬けに。ねっとり、しっとり、むちっと。歯ざわりも三種三様な卵の仕立てにご注目を。

上野修三(うえのしゅうぞう):昭和10年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、1965年、『㐂川(きがわ)』を創業。なにわ伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。現在は、なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍。近著に「浪速割烹㐂川のおいしい野菜図鑑」春夏編・秋冬編(共に西日本出版社)がある。

聞き書き:中本由美子 / 撮影:福本 旭

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飯蛸湯引き造り——卵はほんの一瞬、足は皮だけに火を通す

飯ダコは「頭のとこに卵が詰まっていて…」と言うけれど、実は頭やのうて胴なんでっせ。冬から春先に産卵期を迎えるため、この時季は胴の中に卵胞があり、その中に飯粒のような卵が詰まっていることから、飯ダコ。子持ちダコという呼び方もありますな。それともう一つ、足の付け根に金の輪紋があるのも、飯ダコだけの特徴だす。

今はなかなかのお値段になりましたが、昔はそれこそ「笑ったらくれた」というくらいの安価なものでネ。飯ダコの煮付けというたら春の家庭料理の定番でしたから、割烹でお出しするのはなかなか勇気がいりましたんや。これをお造りでお勧めし始めたのは、昭和も終わりの頃やったかな。さっと皮だけ火を通した湯引き造りを、最初は盛合せに1カンほど添えて、恐る恐ると…(笑)。でも、食いしん坊のお客様の反応は良かったですな。「コレ、意外といけるやん」って喜んでくれはって。

飯ダコは、柔らかさと甘みが魅力ですわなぁ。タコの旨さは皮目と吸盤にありまっしゃろ。ここだけに火を入れて、皮目の旨みと吸盤の食感を際立たせるのが、私流の湯引き造り。火を通し過ぎたら、せっかくの柔らかさが台無しでっせ。
卵も同様に、薄皮を外したら、ほんの数秒だけ湯引きにしておくれやす。網じゃくしにのせて湯に沈め、花がぱっと咲いたら、すぐに冷水に取ってネ。プチプチした中にねっとりするような歯ざわりを残すのが理想だすな。

今回は梅醤油でお勧めしましたけどネ、芥子酢味噌、煎り酒、ショウガを利かせた三杯酢でもいいですな。飯ダコは春野菜との相性が抜群でっさかい、添えも浜防風(はまぼうふう)や花ワサビでいきまひょ。ウドともよぉ合いますから、タコ酢に、酢味噌和えにと、工夫しておくれやす。

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