上野修三の古典

【レシピ付き】原木椎茸は朝採れをその日のうちに

大阪・能勢(のせ)の山で朝もいだばかりの原木椎茸を、車で1時間かけて、すぐさま届けてもらう。『天神坂上野』では、これを客前でさっと炙って、椀物にしたり、焼き霜造りとして供したり。それはまさに、もぎたてでしか表現できない味わいでした。「街中で店をやっていても、探せば採れたての生命力ある食材が手に入る。その持ち味を真っ直ぐに料(はか)った一品には、手間を掛けた料理以上の驚きや感動があるんだっせ」と上野修三さん。今回は、かつて全国から集った名だたる人々を唸らせた、朝採れ原木椎茸のレシピを紹介します。

上野修三(うえのしゅうぞう):昭和10年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、1965年、『㐂川(きがわ)』を創業。なにわ伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。現在は、なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍。近著に「浪速割烹㐂川のおいしい野菜図鑑」春夏編・秋冬編(共に西日本出版社)がある。

聞き書き:団田芳子 / 撮影:東谷幸一

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焙り椎茸の清汁仕立て——椎茸が抱く森の精気が味の決め手

市場で目にする椎茸の大半は菌床栽培でっしゃろ。クヌギや楢(ナラ)の木に直接種菌を打ち込む原木栽培の椎茸は、形や大きさが均一にならんので、流通に乗りにくいんですな。けど、その風味の豊かさはケタ違いだす。
さらに原木でも、ハウス栽培やなくて森の中で育った自然栽培のんは、見た目から勢いが違いますな。

名産地の九州ほど大阪産の名は売れてないけど、地元ならではの朝採れは、遠方から運ばれてくるものとはひと味もふた味も違いまっせ。今日は能勢で今朝もいだ原木椎茸が届きましてん。なかなか立派なもんだっせ。

私がこの能勢の原木椎茸と出合ったのは20年ほど前。「浪速魚菜の会」の試食会でした。森の中、原木を井桁(いげた)に組んだ栽培場で、採りたてを七輪で炭焼きにしてネ。森の精気を吸い込んだ濃密な椎茸の風味は今でも忘れられまへん。これを何とか店で再現したいと考えたわけだす。

この吸物には笠(かさ)の開いたんを選びます。立派な見た目もご馳走でっさかいな。
この原木椎茸は農薬も使ってないし、土にも触れてないから、乾いた布で軽く拭くだけ。間違っても洗ったらあきまへんで。せっかくの香(かざ)が飛んでしまいまっさかいな。

七輪で笠の方だけごく軽く炙っておくれやす。生でも食べられるもんやから、炙りすぎは厳禁だっせ。殺菌の意味でさっと火を通すだけ。笠裏に汗をかいてきたら、その露ごと椀に落とし入れまひょ。そこへ熱々の吸い地をかけるって寸法だす。

こんな簡単なん、料理とは言われへん? でもね、朝採れの原木椎茸やから、新鮮さを食べてほしいんだす。たまに朝市で、和歌山や奈良から来た原木椎茸を見つけて使ってみるけど、やっぱり1日は経ってしもてるんやろね。朝採れなら、炙って吸い地を張るだけで、濃厚なスープのような香り高い一椀になりまっせ。

椎茸の風味をストレートに味わってほしいから、吸い口もなし。生の椎茸ならではのシャクッとした食感と合うから、松の実だけちょこっと添えましょか。

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