今月の和菓子

5月の和菓子——賀茂の祭

「葵祭」の名で親しまれ、5月初旬から始まる前儀、平安装束をまとった人々が練り歩く「路頭の儀」は、まさに京都の風物詩。昨年に引き続き開催中止が決まったが、和菓子にその風景を表し、食べ手の心に映すことはできる。西陣の菓子司『千本玉壽軒(せんぼんたまじゅけん)』三代目・元島真弥さんの表現とは。

文:小林明子 / 撮影:岡森大輔

「温かみや高貴さを感じさせる紫は、赤みがちに仕上げます」。

白あんに小麦粉などを加え、蒸して“揉みこなす”製法からその名がついたともいわれる“こなし”。関西で特に好まれている、ほのかな弾力感が印象を残す生地の素色1に対して紫色2の割合でグラデーションをつけ、こしあん玉を挟む。右裾に浮かび上がらせているのは御所車と呼ばれる牛車(ぎっしゃ)の車軸だ。

御所車と、その屋形に飾られる藤の花色である紫、二つのモチーフで表現するのは、王朝絵巻さながらの雅な祭列が京の街を練り歩く初夏の風物詩「賀茂祭」。随所に下鴨神社と上賀茂神社の神紋である二葉葵の葉を用いることから、江戸時代に祭が再興されて以降は「葵祭」の呼び名が広がっていったが、伝統的な趣があるこの“こなし”では「賀茂の祭」を菓銘とした。

紫は和菓子業界では頻繁に使われる色だが、その色調は幅広い。青みがかるとシャープ、冴え冴えとした印象になる。「賀茂の祭」では少し赤みがからせ、品の良さを醸し出している。

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