今月の和菓子

8月の和菓子——送り火

京都三大祭と共に京都人が大切にしている「五山送り火」。その始まりは平安時代とも江戸時代とも伝わりますが、史料に登場するのは近世以降。詳細は定かではありません。かつては五山以外でも行われており、“一”や“い”の字の点灯もありました。昨年に引き続き、今年も規模を縮小して一部点火のみが行われるため、文字や形は浮かび上がりません。「残念ですが、来年こそは…の思いを込めて」と、西陣の菓子司『千本玉壽軒(せんぼんたまじゅけん)』三代目・元島真弥さん。夏らしさを感じさせる表現に注目です。

文:小林明子 / 撮影:岡森大輔

「色付きの葛を透明な葛で包み、奥行きを出しています」。

毎年の8月16日午後8時。京都では“お精霊(しょらい)さん”と呼ぶ、お盆に迎えた先祖の霊を送る火が東山の“大”の字に点される。椀に張った水に“大”を映して飲むと一年中息災で過ごせるとも謂われている。

「送り火」は、水に映した風情も連想させる葛菓子だ。細やかに火加減を調整しながら練り上げる葛生地を水にくぐらせて広げ、型抜きした羊羹製の“大”、背景になる葛生地、みずみずしいこしあんを包む。4つもの素材を重ねる一連の作業はスピード勝負ながら、長年かけて編み出した秘技を生かして、夜空に“大”が浮かぶ情景を作り出す。

その臨場感の裏には配色の妙も隠されている。“大”は淡い橙色、奥側の葛生地は紫がかった青色。それぞれは火にも夜空にも見えないが、反対色を合わせることで双方の色が鮮やかに際立つ相乗効果を利用して “送り火”としての命を吹き込んでいる。

ハリのある葛生地を貝殻のように閉じる包餡スタイルを“貝包み”と呼ぶ。天辺ではなく、自然な目線の先にモチーフを置きたい時、この形を取ることが多い。

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