品のある旨みが特徴の「アカシタ」
その名の通り、舌のように扁平な魚。シタビラメと聞いて多くが思い浮かべるのは、おそらくバター香るムニエルの味。それなりに知名度のある魚だけれど、細かく種類があり、その味も旬も異なることは、料理人の間でもあまり知られていない。
魚が豊富に獲れたことから、「魚庭(なにわ)」の古称を得たと言われる大阪。古くから揚がるシタビラメには、イヌノシタ、アカシタビラメ、コウライアカシタビラメと、主に3種がある。
なかでも特に人気が高いのが、12月から3月にかけて旬を迎えるイヌノシタ。ゴカイやエビ、二枚貝などのエサを求めてヒラヒラと泳ぐ夜行性で、昼間は砂の中でじっとしているとか。緋色(ひいろ)のウロコが鮮やかな魚体は、全長40㎝前後が中心とやや大型。品のある味わいで、通の間では高級魚のひとつとして重宝されている。
色合いから、昔から泉州ではイヌノシタのことを「アカシタ」と呼ぶ。仲間であるアカシタビラメはウロコが青味がかっているので、大阪では「アオシタ」が通称だ(【大阪産(もん)魚介類】)。
泉州(せんしゅう)ではお馴染みの食材
大阪でアカシタの漁獲量トップを誇るのは、大阪南部の泉佐野市にある『佐野漁港』。日中の大半を海底の泥中に身を潜めるアカシタは、底びき網漁が主流。その底びき網船を約30隻も有する『佐野漁港』は、アカシタのみならず大阪府で1、2を争う魚河岸として周知されている。
「漁港の隣にある青空市場には私用で買い物に来ていますが、漁港も競(せ)りも、見るのは初めて。魚庭の海の豊かさがよくわかる品揃えと、昼網ならではの明るい雰囲気が楽しいですね!」。日ごとに寒さが増してきた11月下旬の午後、その『佐野漁港』を訪れたのは、北浜にある『弧柳(こりゅう)』店主の松尾慎太郎さん。
松尾さんは、結婚を機に奥様の地元・岸和田に住んで20年以上。自店を構える大阪市内では聞き慣れないアカシタは、ここ泉佐野や岸和田などの泉州沿岸部では、スーパーにも並ぶ日常的な存在。奥様のお義父様も一夜干しや煮付けを手作りするほどお好きだそうで、ご馳走になるうちに松尾さん自身もその美味しさに目覚めたという。
「皮目に独特の香ばしさがあって、一夜干しは酒を呼ぶ佳肴。新鮮でないと楽しめないお造りも身の弾力がクセになる。骨周りの身も旨みが強いので、ぶつ切りして唐揚げや鍋でいただくのも好きです」。
鮮度は色に現れる
「鮮度の良さを、漁師さんはどこで判断されますか?」。
「真っ赤な背中、真っ白なお腹。色で見極めています。水揚げされてから時間が経つほど、赤色の鮮やかさは失われていきますよ。鮮度が落ちやすいので、生きたまま氷に浸ける氷締めにしますね」。
松尾さんの質問に分かりやすく答えてくれたのは、漁師の木下亮平さん。32歳と業界では若手だが、漁師歴は既に15年以上。アカシタを主体に狙う底びき網漁は、今も毎日共に船に乗る父の代から続けているそうだ。
「昔は水深の深い場所にしかいませんでしたが、温暖化の影響か、最近は浅い水深でも獲れることが増えましたね。味も変わりませんし、本当の理由は分かりませんが、状況を見極めて量と質をキープできるよう心がけています」。
ちなみに、今が旬なのは冬に身を肥やすアカシタだが、6月から9月まではアオシタが美味しくなる時季だとか。「機会があれば味の違いをぜひお試しください!」。一部しか知らないアオシタの美味しさにも気付いて欲しいと話す木下さんの真っ直ぐな瞳が眩しい。
「お恥ずかしい話ですが、今日初めてアカシタとアオシタの種類があることを知りました。『佐野漁港』には足を運ぶことが多いので、またタイミングをみて試してみますね」。
産地を訪問して生産者と触れ合うことで深まった知識と想い。バトンを受け取った松尾さんが、アカシタ料理を2品、披露する。
『弧柳』のアカシタ料理のレシピはコチラ
【住所】大阪府泉佐野市新町2- 5187
アカシタをはじめ、『佐野漁港』で揚がる魚介は、隣の『泉佐野漁協青空市場』で購入可。
http://www.aozora-ichiba.com/
※事前予約でセリの見学も可能。
https://www.instagram.com/izumisanogyokyou?igshid=NTc4MTlwNjQ2YQ%3D%3D
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