和インのマリアージュ

料理人のためのソムリエ試験対策 Vol.7テイスティングして書き留める

ソムリエの松岡正浩さんから学ぶ「料理人のためのソムリエ試験対策」第7回目は、二次試験対策に必要なグラス選びから、基本的なテイスティング方法、そしてテイスティング力を磨くアウトプット法「自分の言葉で書き留める」重要性について。松岡さんの経験則が生きた、合格への最良・最短の方法をお教えいただきます。

文:松岡正浩 

目次

松岡正浩(「合同会社 まじめ2」代表 / 大阪・北新地「空心 伽藍堂」シェフソムリエ)

兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022~23年、京都・御所東のフランス料理『Droit(ドロワ)』においてギャルソンとして勤務。23年6月より、大阪・北新地の中国料理『有 伽藍堂』にてシェフソムリエを務める。

ワイングラスとワインの準備

最初にワイングラスを準備しましょう。
二次のテイスティング対策としては「INAOテイスティンググラス」が最適です。インターネットで「INAOテイスティンググラス」と検索し、最低3脚購入してください。これで準備したワインを並べて比較することができます。

このグラスが二次試験当日に使用されます。小ぶりで、「美味しく飲むため」というよりは「特徴をとらえるため」のグラスであり、ワインの香りや味わいそれぞれの要素を個別にとらえることに適しています。

ワイングラスの次はワインの準備です。同時にテイスティングするワインは白ワインか赤ワインのどちらかに絞ります。そして、前回紹介したブドウ品種のワインを3~4種類準備してください。同じ色のワインを比較することで、それぞれの特徴や違いをより明確に感じ取ることができます。

テイスティングを始める前に、テイスティングの本を開いて準備したワイン(ブドウ品種)の特徴を頭に入れてください。そして、自分なりのイメージを持った状態でテイスティングを行います。そのイメージと目の前のワインとの違い、書籍には書かれているけど自分では感じられない点等に気づくことが大切であり、これらの違いを確認していく過程で、少しずつそのブドウ品種の個性がわかるようになっていきます。

さて、実際にテイスティングしてみましょう。
各ブドウ品種のイメージを頭に入れましたが、グラスを手に取った瞬間からは先入観を持たず、目の前のワインから何を感じ取れるのかということに意識を集中します。可能な限り「ブラインドテイスティング」、つまり銘柄やブドウ品種を伏せた状態でテイスティングを行ってください。ラベルや瓶の形を隠すためにボトルを何かで包む、もしくは、包まれた状態で購入するとよいと思います。また、ご家族や同僚に手伝ってもらえるならお願いしてみましょう。

私は受験当時、一人暮らしで懇意にしている酒屋もありませんでした。購入したワインをアルミホイルで包み番号を付け、部屋を真っ暗にしてボトルの順番を入れ替え、グラスに注いだ後、ボトルの形から先入観を持たないようにするためにグラスを持って部屋を移動しテイスティングを行っておりました。


ワインテイスティングの基本

「外観」をしっかりと見ることから始めましょう。外観は想像以上に多くの情報を与えてくれます。その後、「香り」「味わい」という流れで進めていきます。

1. 外観を観察する
まずは、テーブルに置かれたグラスの中のワインをじっくり観察してみましょう。次に、グラスを手に取って45度ほど傾けてみてください。グラスの下に白い紙等を敷き、光に透かすと、ワインの色や液面の縁の色までよくわかります。この時、以下の点に注目します。

・色調:黄金色や淡い赤色、濃い紫色など、ワインならではの色を観察。
・濃淡:白ワインは透明でグリーンがかっているのか、黄色みが強いのか。赤ワインは液体の向こうが透けて見えるかどうかその度合いを確認。
・清澄度、輝き:まず、澄んでいる(健全)かどうか、その後、輝いているのか(若い)、落ち着いているのか(少し熟成)の度合いをチェック。
・粘性:グラスを45度ほど傾けてゆっくり戻した時に、ワインがグラスの内側を流れる様子を観察。

2. 香りを感じる
香りは2段階で確認します。

・グラスを手に取り、そのまま全体的な香りを感じ取る。
・次に、グラスを軽く回して香りを立たせ、果実や花、スパイスなど個々の要素を探る。

3. 味わいを確認する
そして、実際に口に含んで味わいましょう。最初は全体的な印象を、その後、果実味や酸味、アルコールの強さなどを意識し、確認します。赤ワインの場合は、渋み(収斂性)にも注目します。一口ずつ、ゆっくりと各要素の強弱を感じてください。

そして、ここからが一番大切なところ、今回のテーマです。

ワインの色を確認する


テイスティングして書き留める

テイスティングして感じたことを、「外観」「香り」「味わい」の順に、「自分の言葉」で印象を書いてください。

「感じたことを言葉にする」と簡単に言っておりますが、これがとても辛い訓練であることは始めてみるとわかります。
例えば、ご自身の作る料理の香りや味わいを具体的に言葉で表現した経験はございますか。料理人に限らず多くの方は、「おいしい」「柔らかい」「甘い」「辛い」「酸っぱい」等以外の言葉で食べ物を表現することに慣れていないと思われます。
まして、ワインを感じ、それらを言葉にするとなると最初のうちは何を書いてよいのか全くわからず戸惑うことばかりでしょう。それでも、他の誰かに見せるわけではないのですから、正しい、正しくないは一切気にせず、ただ素直に、目で見て、鼻で感じて、口で味わって、その印象をありのままに書き留めてください。あとで読み返したいので、テイスティング専用ノートを準備して、そこにどんどん書き込んでいってださい。

テイスティングして言葉にしないということは、ただ飲んで感じているだけであり、その先のアウトプットがない状態です。二次試験ではワインの言葉(=コメント)を選ぶことが求められており、目の前の液体を言葉にする訓練が必要なんです。

二次のテイスティングを独学で乗り切るには、私はこの「書くこと」から始めることが最良であり、最短距離であると信じております。

毎回、外観をしっかり見ることから始め、思ったことを言葉にします。「輝いている濃い黄色」「ほぼ無色だけど、ほんのり黄緑」「赤黒い」「真ん中は紫なのに縁は赤い」「ややくすんでいる」「真っ黒で向こう側が見えない」など。

続いて香りに進みます。慣れないうちは「爽やか」「赤いフルーツ」「くすんだ感じ」「なんだか醤油っぽい」等でも構いません。そこから、「なんとなくオリエンタルな香り」「ジャガイモの皮を剥いている時の香り」「イチゴ」「ブルーベリージャム」「動物園の臭い」等、より具体的に言葉にするよう心掛けてください。

味わいも同様です。「酸っぱい」「重い」「渋い」「甘い」「リンゴジュース」「渋みが強い」「口の中がざらざらする」「あまり美味しくない」「スッとしている」「これを飲んだら〇〇が食べたくなった」等々、本当に思ったことを自由に表現豊かに、とにかくどんどん書いていってください。

何が辛いかと言いますと、特に日本人は学校教育において「正解」ばかりを求められる影響からか、この正しいかどうかわからないことを発言したり、書き留めたりすることがとても苦手です。さらに、間違えることを恥ずかしいと考えがちな文化の中で育ったことも、この訓練をより難しく感じさせる原因だと思います。

それでも、こうして「テイスティングして書き留める」ことを続けていると、ふと、何かに気づく瞬間が訪れます。
「あれ、この香り、あの果物の香りに似ている」「この味わい、前に飲んだあのワインのようだ」と。そして、その時にご自身のテイスティングノートを読み返してみてください。似たような表現や同じ言葉を探しながら、その時の香りや味わいを思い出してみましょう。書き溜めたコメント、アウトプットした表現を読み返すことで、ご自身の好みや癖、得手不得手が少しずつ見えてきます。そして、この「書くこと」を繰り返しているうちに、少しずつワインを判断する基準ができていくわけです。

言い換えれば、テキストなどに書かれている各ブドウ品種の特徴も、納得できた表現(言葉)でなければ意味をなさず、ご自身の感覚で特徴をとらえなければあまり役に立たないということ。その為に、「テイスティングして書き留める」ことがとても大切で、この書くという基礎訓練を怠ったために一次試験突破後に苦労する方をたくさん見てまいりました。

ワインを知り、学ぶということは、ワインを言葉で表現し、そして言葉で記憶することでもあります。

ワインのコメントを書く人


ワインの酸とアルコール

数回テイスティングを繰り返し、少し慣れてきたかなと思ったころから意識して欲しいことがあります。

「酸(酸味と考えてもよい)」
「アルコールのボリューム」

この2つの強弱を特に意識して感じてみてください。最初は「すっぱい」「濃い」といった漠然とした印象しか持てないかもしれません。それでも、テイスティングを続けるうちに、必ずこの2つの強弱を感じ取れるようになります。

そしてこの二つ、「酸」と「アルコールのボリューム」の強弱を感じわけられるようになることが、二次試験としての最重要ポイントの一つ「ワインのタイプわけ」の鍵となります。

ということで、次回は「ワインの酸とアルコール」についてお伝えします。

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