和インのマリアージュ

料理人のためのソムリエ試験対策 Vol.1

「日本ソムリエ協会」が開催する「ソムリエ呼称」「ワインエキスパート呼称」を認定する試験は、夏から秋にかけて開催されます。ソムリエの松岡正浩さんは、独学者向けのソムリエ試験対策講座を長年開講し、多くの合格者を排出してきた一人。今回から数回に分けて、なるべく最短で、今後のワイン人生を豊かにする「料理人のためのソムリエ試験対策」をご教授いただきます。

文:松岡正浩 / 撮影: 下村亮人

目次

松岡正浩(大阪・北新地|中国料理『有 伽藍堂(う がらんどう)』/シェフソムリエ)

兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022~23年、京都・御所東のフランス料理『Droit(ドロワ)』においてギャルソンとして勤務。23年6月より、大阪・北新地の中国料理『有 伽藍堂』にてシェフソムリエを務める。

ソムリエ試験に合格するには?

最初に結論から申し上げます。おおよそ半年間、多少面倒で辛い受験勉強的な本気の「暗記」作業と、それなりのテイスティング対策(白ワイン、赤ワインの各主要3、4品種)のみでソムリエ試験に合格することができます。今現在、ワインの知識がゼロでも全く問題ありません。

私は2011年に「ちょっとまじめにソムリエ試験対策こーざ」という独学者向けのソムリエ試験対策講座をインターネット上で開講しました。そして、現在まで数多くの独学受験生を合格に導いてまいりましたので、どの程度の努力で合格することができるのか、ということを感覚的に理解しております。
この経験をふまえまして「料理人のためのソムリエ試験対策」について数回にわけてお伝えしたいと思います。

ソムリエ試験とは、一般社団法人日本ソムリエ協会が年に一回、夏から秋にかけて実施する「ソムリエ呼称」を認定する試験であり、3年以上の飲食業経験があり、受験時に従事していることが求められます。詳細な受験資格等はソムリエ協会のホームページにてご確認ください。
ちなみに、同協会が認定している「ワインエキスパート呼称」はワイン愛好家向けの資格で、満20歳以上であればどなたでも受験が可能です。試験内容的には三次試験が実施されないという違いはありますが、ソムリエ呼称と難易度は同じです。

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ところで、皆さんはソムリエ試験もしくはソムリエ有資格者に対してどのような印象をお持ちでしょうか。ワインの専門家的な資格だと思われている方もいらっしゃるでしょうし、一緒に働いているソムリエを、この人はスゴイ!と感じている方も多いかと思います。ただ、日本全国に数万人いるソムリエ有資格者のレベルは料理人の実力と同様に千差万別です。

ソムリエ試験合格は調理師免許取得に近いと考えていただければわかりやすいかと思います。調理師学校を卒業、もしくは調理師免許を取得したばかりの方が現場で通用する料理人である可能性は低く、ソムリエ資格を取得したばかりの人も然り。ソムリエも試験に合格してからが本当の修業といえます。
このことからも、ソムリエ試験はそれほどハードルの高い試験ではなく、ある程度の努力は必要ですが、ワインの香りや味わいを判別する特別な能力やワインをたくさん飲んできた等の経験も全く必要ありません。

その試験対策をどうするのかと考える前に、そもそもソムリエ試験とはどのような内容かということからお伝えいたします。

ソムリエ試験の概要

ソムリエ呼称認定試験は三次試験まで行われます(愛好家向けのワインエキスパート呼称は二次試験まで)。そして、一次試験は暗記を必要とするいわゆる筆記試験、現在はCBT方式と呼ばれるスタイルで実施されております。

※CBT(Computer Based Testing )方式
受験生は指定された会場に設置されたパソコンに表示された試験問題に対して、マウスやキーボードを用いて解答します。パソコンの操作に自信がない方も当日操作方法の説明があり、問題なく受験できるようになっています。また、受験日時及び会場を期間内から自由に選択することができます。

一次試験突破後、二次試験に進むことになります。いわゆるテイスティングの試験で、現在はワイン3種とその他のお酒(蒸留酒やリキュール類)2種が出題されます。そして、ワインに関しては「外観」「香り」「味わい」「評価、収穫年、生産地、主なぶどう品種」の各項目についてのコメントや名称を、その他のお酒に関してはそのお酒の種類(名称)のみを、マークシート方式で答えるというスタイルです。

三次試験はサービス実技と論述。実技試験は長年、「お客様からご注文いただいたボルドーの赤ワインをパニエ(ワインバスケット)に入れて抜栓し、デキャンタージュし提供する」という一連の流れが問われてきました。ただ、減点法で採点されるため、大きな失敗をいくつか犯してもほとんど合否に影響しません。ボトルを落とし割ってしまい実技続行不可能なレベルにまでなれば厳しいかもしれませんが、実技で落ちたという話は聞いたことがありません。ですから、二次試験突破後、数回から十数回練習すれば問題なくクリアできます。

論述試験は、ワインに関するさまざまな問いに対して文章(200文字から400文字程度)で答える設問が3問出題されます。受験日は二次試験と同じ日ですが、判定は三次試験扱いとなっており、サービス実技と共に審査されます。とにかく何かを書かなくてはならないのですが、一次試験を突破された方であれば、その後2カ月ほど時間がありますので、なんとかなります。

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ソムリエ試験対策の前に、まずすべきこと

さて、ソムリエ試験対策といっても何からどう始めるとよいのかわからないという方がほとんどかと思います。特にテイスティングのことが気になると思いますが、まず、最初にすべきことは「ソムリエ資格を取得する」と決意することです。そして、周囲の方に受験すると宣言しましょう。
決意し、言葉にして宣言することが最初の一歩です。職場にソムリエがいる方なら様々なサポートが期待できますし、宣言することで安易に逃げられない状況を作り自身を追い込むことも、あきらめず頑張る為に必要であると考えることができます。そして、いろんな意味で意識が変わり世界が少し違って見えるように感じ始めたらしめたもの。ただ、この最初の一歩がなかなか難しいことは皆さんもよくご存知だと思いますが、今日ここまでお読みいただいたことも何かの縁です。
今「来年、ソムリエ試験に合格する」と決意し、力強く宣言しましょう。ここからすべてが始まります。

一次試験は毎年7月後半から始まります。今から一年間あるわけです。それほど難しい試験ではないとお伝えしましたが、暗記すべきことがらは山のようにございます。正直、半年間は寝る時間を惜しんで、ソムリエ教本や参考書とにらめっこしなくてはならないはず。それでも、半年の本気でソムリエ有資格者です。
そして、今はまだ決意するだけで大丈夫です。漠然とソムリエになるとイメージすることで見えてくること、感じることが出てくるはずです。さらに、しばらくして、これまで全く目に留まらず、耳に入ってこなかったワインに関する言葉や情報がそれとなく気になり始めたなら、それだけで合格に一歩近づいている証です。意外かもしれませんが、この時期のイメージや気づきが大切で、試験対策終盤に何かとプラスになるものです。

「試験に合格する」という強い気持ちと、最後まであきらめず限られた時間の中でどれだけ努力できるかということが合否を左右します。個人の能力はほぼ関係ありません。そして、試験対策を始めた皆さんがその後一番苦労するであろうことは、ワインの産地名や格付けを覚えること以上に、あきらめず前向きな気持ちを持ち続けることだと思います。

ソムリエ試験合格にはそれなりの努力を要しますが、これまでに、どちらかといえば勉強嫌いな人の多い飲食業界において数万人の有資格者がいることからも、真剣に半年くらい勉強すれば誰でも到達できるレベルです。とはいえ、料理人として夜遅くまで働きながらの試験勉強、テイスティング対策はとても辛いものです。私も経験したのでよくわかります。それでも、合格した先には間違いなく素晴らしい世界が広がっております。また、私自身、ワインは「縁をつなぐお酒」であると感じており、実際に数多くの素敵な縁に恵まれてまいりました。

ということで、半年間だけ本気で頑張ってみませんか。
次回は一次試験(筆記試験)対策についてお伝えします。

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